・・・ 正義、良心、恥を知る心などというものは何と現代に愚弄されているだろう。それだのに、なお、わたしたちには、しつこく、正しさを愛し、人間らしさを求めずにいられない心がのこされている。それは、なぜなのだろう。すこしはげしい表現をもっていえば・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・パックが二人のアテナ人の瞼にしぼりかけた魔法の草汁のききめは、二人の男たちの分別や嗜好さえも狂わせて、哀れなハーミヤとヘレナとは、そのためどんなに愚弄され、苦しみ、泣き、罵らなければならなかっただろう。大戯曲家シェクスピアは、大胆な喜劇的効・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・日本の蔵相は人民を愚弄しています。 この場合、婦人代議士は何をしているでしょう。彼女達の多くは何といって話をしてよいか知りません。なぜなら大部分の人が有産階級の人ですから。昨今婦人代議士のいうことは戦時中村岡花子や山高しげりその他の婦人・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・ンテリゲンチアをふくむ小ブルジョア層にますます小ブルジョアの無気力を助長するような自嘲、自己嫌悪を吹きこみ、労働者の側からはその現象をさながら動かすことのできないインテリゲンチアの特性であるかのように愚弄するような社会的空気がかもされている・・・ 宮本百合子 「今日の文化の諸問題」
・・・的行政機構をもち、民主的労働組合と文化をもち、すべては民主的な表現で話されていて、内実は、ポツダム宣言の急速な裏切りと戦争挑発とファシズムの東洋の露店がつくられつつあるとすれば、その国の人民のおかれた愚弄の位置には堪えがたいものがある。わた・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・いわゆる新人にとっても、傍からそれを目撃するものにとっても、これは堪えるに容易でない一つの愚弄である。 文学的新世代の萌芽 真の文学的新世代の萌芽は、そのようなむずかしく、渡るに難い文壇大路小路の地図を知らず、・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・権力が行ったすべての悪業のうち最も若き人々に対してあやまるべき点は、若い人間の宝であるその人々の人間的真実を愚弄したことである。活々として初々しい理性の発芽を、いきなり霜枯れさせた点である。今日、聰明で、誠実な若い世代は、自身の世代が蒙った・・・ 宮本百合子 「信義について」
・・・自分の猿芝居のような扱われ方をみた時、どんなに深刻にこれらの人々は自分の生、自分の運命、自分に連らなるすべての愛する人々の運命が、権力によって愚弄されたかということを知るだろう。選挙が迫っている、その人は選挙権を持っている。ところが、書類の・・・ 宮本百合子 「青年の生きる道」
・・・若い愛がまともに達成されず、途中で挫かれ、初々しい真摯さを愚弄されるために、いかほど、人間への信頼を失って肉体と精神との漂流をつづけている人があるだろう。売笑婦の増大、半売笑婦人の増大は、偽善めかした貞操論者の顔の上へはきかけられた資本主義・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・オセロの人間的尊厳を愚弄されたと思った憤りと絶望の深さにある。その角度からみれば、地球上に植民地というものが存在し、人種間の偏見が少しでものこされている限り、オセロの悲劇のファクターは、人間社会から消えていないということにもなる。 それ・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
出典:青空文庫