・・・それらの人々は云わばもう子供のころから軍歌をきかされて育った。常識的な大人を恐怖させるほど率直な真実探求の欲望にもえる十五六歳より以後の年代を、これらの有能な精神は、そのままの真率さで戦争のための生命否定、自我の放棄へ導きこまれた。専門学校・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・、林芙美子の「軍歌」をまともに分析検討しないなら、文学者の平和運動への協力は、どこに実感の真実性をもつだろう。佐多稲子の作品をかたるとき、批評は生活派らしい座りかたになり、地声となっているが、論点は作者と読者を肯かせるところまで掘り下げられ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・誰でも読む新聞、誰でも聴くラジオと軍歌、演説が知識人の知識の糧であり得るにすぎない。今日ほど、知識人が客観的に大衆なみにおかれていることはなかったと思う。大衆の不満がありとすれば、それは本質的に知識人の不満である。おしかぶせの全体主義への心・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・古い軍歌に「四面海もてかこまれし」とうたわれた日本は、東も西も大陸からきりはなれていて、弦をはったような狭い日本はファシズムと治安維持法ですき間もなくふさがれていた。大新聞の国際報道さえ制限され、外国の本の輸入は禁じられ、国際的な統計はもと・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・屋根も土も木も乾きあがって息づまるような熱気の中を、日夜軍歌の太鼓がなり響き、千人針の汗と涙とが流れ、苦しい夏であった。長谷川時雨さんの出しておられるリーフレットで、『輝ク』というものがある。毎月十七日に発行されているのであるが、八月十七日・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫