・・・二疋は両方からぐいぐいカン蛙の手をひっぱって、自分たちも足の痛いのを我慢しながらぐんぐん萱の刈跡をあるきました。「おい。よそうよ。よして呉れよ。ここは歩けないよ。あぶないよ。帰ろうよ。「実にいい景色だねえ。も少し急いで行こうか。と二・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・一郎は言いながら先に立って刈った草のなかの一ぽんみちをぐんぐん歩きました。 三郎はその次に立って、「ここには熊いないから馬をはなしておいてもいいなあ。」と言って歩きました。 しばらく行くとみちばたの大きな楢の木の下に、繩で編んだ・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・二人は鞄をきちんと背負い、川を渡って丘をぐんぐん登って行きました。 ところがどうです。丘の途中の小さな段を一つ越えて、ひょっと上の栗の木を見ますと、たしかにあの赤髪の鼠色のマントを着た変な子が草に足を投げ出して、だまって空を見上げている・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・なれども仔馬はぐんぐん連れて行かれまする。向うの角を曲ろうとして、仔馬は急いで後肢を一方あげて、腹の蠅を叩きました。 童子は母馬の茶いろな瞳を、ちらっと横眼で見られましたが、俄かに須利耶さまにすがりついて泣き出されました。けれども須利耶・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・と云い乍ら、驚き、不機嫌な男の手を、ぐんぐんと引張って居るのである。 相手は、暫く呆然とされるままになって居たが、やがてはっきり「いやです」と云った。それでも、気の違って居る人は承知しない。猶も執念くつきまとう。終に、男は実・・・ 宮本百合子 「或日」
・・・ いよいよ手術を受ける時になって、病気について、何の智識もないお君は、非常に恐れて、熱はぐんぐん昇って行きながら、頭は妙にはっきりして、今までぼんやりして居た四辺の様子や何かが、はっきりと眼にうつった。 胸元から大きな丸いものがこみ・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・其からぐんぐんと延び育った熾な夏は僅か二箇月でもう褪せようと仕て居ります。私が大きな楡の樹蔭の三階で、段々近眼に成りながら、緩々と物を書き溜めて居るうちに、自然は確実な流転を続けて居ります。今も恐るべき単調さで降りしきって居る雨が晴れたら、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・自分がこうと思い込んだ先輩一人をきめて、その人に対しては自分の真実をつくして対して行くか、さもなければ、一人っきりになってぐんぐん自分の内に入って行くか――。ただ方便のように偉い人々のところを廻っていたって自分が立派にはならないと思います」・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・無自覚でするコケティッシュな浮々さが沈み、真個に延るべきものが、ぐんぐん成育するに違いないと信じて居たから、自分は、怯じて居られなかった。 今、恐らく一生、自分は此反省の誤って居なかったことを感謝し得るだろう。 九月三日に引移って以・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・低い方の山の書類の処理は、折々帳簿を出して照らし合せて見ることがあるばかりで、ぐんぐんはかが行く。三件も四件も烟草休なしに済ましてしまうことがある。済んだのは、検印をして、給仕に持たせて、それぞれ廻す先へ廻す。書類中には直ぐに課長の処へ持っ・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫