・・・いきおい末弟は一家中から敬遠の形である。末弟には、それが不満でならない。長女は、かれのぶっとふくれた不機嫌の顔を見かねて、ひとりでは大人になった気でいても、誰も大人と見ぬぞかなしき、という和歌を一首つくって末弟に与えかれの在野遺賢の無聊をな・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・しかし、問題がまだアカデミックな研究にかけるにはあまりになまなましくて、ちょっと手がつけられそうもないから、そういう問題はまずまず敬遠しておくほうがいいという用心深い態度を守って、格別の興味を示さない。 丙種の科学者になると、かえってこ・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・として擯斥され、「さまでは言わずもがな」として敬遠されるようである。これは連句を単に鑑賞するだけの立場からはもっともなことであるが、連句というものをほんとうに研究するには不都合な態度である。のみならず自分で連句の創作に手をつけるものにとって・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ 女の子は、愛嬌がないときらわれる、意志がつよいと敬遠される、と、受け身にばかり育てられた日本の若い女性が、今日、どのような姿で、この古い日本の躾の欠陥を社会に示しているでしょうか。 世界の人が、日本の謎の一つとする「日本人の笑・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・もし自由学園なら、あすこは生徒の親の資産調べと校風にしつけやすい特色の少い性格の子供をとることとで一部には有名であるから、作家の子供は敬遠したのかもしれない。 けれども、それにはかかわりなく、やはり出された質問の性質は今日の或る普遍性に・・・ 宮本百合子 「新入生」
・・・「ああいいともいいとも私が居りゃ泥棒だって敬遠して仕舞うさ。などと云いながら、少し夜が更けると、皆の暑がるのもかまわず、すっかり戸を閉めて、ガラス戸にはカーテンをすきまない様に引いた。 そして、そこいら中に燈をカンカンつ・・・ 宮本百合子 「盗難」
出典:青空文庫