・・・ 北氷洋の氷の割れる音は近づく運命の秋を警告する桐の一葉の軒を打つ音のようにも思われるのである。 寺田寅彦 「北氷洋の氷の割れる音」
・・・忠義立として謀叛人十二名を殺した閣臣こそ真に不忠不義の臣で、不臣の罪で殺された十二名はかえって死を以て我皇室に前途を警告し奉った真忠臣となってしもうた。忠君忠義――忠義顔する者は夥しいが、進退伺を出して恐懼恐懼と米つきばったの真似をする者は・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・ アメリカにわたってから、エリカ・マンが語った意味ふかい警告が、内山氏の紹介に録されている。それはエリカ・マンが「私はドイツにいるあいだ政治のことは政治家にまかせておけばよいというあやまった見解でした。私ども多くのものがそう考えたために・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・警視庁がこれに対して、十二時間を限度とする警告を発したのは遠いことではなかった。母性保護の見地から婦人労働者の入坑を禁じた鉱山労働へ、女は石炭に呼ばれ、再び逆戻りしかけている。幼年労働の無良心な利用も問題とされているのである。 婦人が性・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・常任中央委員会から左翼的逸脱の危険を、警告されたのであった。このときは、山田清三郎が、右翼的日和見主義の自己批判を発表した。当時「ナップ」の書記長は山田清三郎であった。「前進のために」をよむと、誤りをみとめつつ、なお林房雄などの卑劣さに対す・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・かりに、役人である人が、突然、無警告にクビになって、その朝から困らないだろうか。事情はまったくおなじであると、話した。課長は、けっして、生活権を奪おうなどと思ってしたことではないこと。第一、特定の人々を指名したわけではなかったのに、ジャーナ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・ この不幸な出来ごとを、東京検事局では、「一般のお母さんへの警告」として、過失致死罪として起訴した。殺人電車、赤ちゃん窒息という見出しで新聞はこの事件を報じた。そして、この不幸は母親ばかりの責任ではなく、我もろとも十分に知りつくしている・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・今日、あらわな慢性の飢餓の状態に立ち到るまでには、いくつかの段階があって、そのたびにいろいろな警告が発せられました。配給を公平にせよ、横流しをするな、闇をとりしまれ、公徳心を発揮せよ、と云われたのですが、そのききめは、どの位のものでしたろう・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・これは、私達によろこびより寧ろ深刻な警告を与える事実であると思います。『主婦之友』、『婦人倶楽部』などの短歌欄に投稿している婦人の数に比べて、この二人という数は何百分の一に当るでしょうか。『集団行進』の中に辛うじて二人の先達を送った婦人の大・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ ――自分の妻君にされちゃ厭だと思うことは、ひとの奥さんにも仕ないのが本当だろう―― 幾分警告的な意味で云ったが、嫉妬ということが、不図これまでの心持と違った角度から感じられた。「人間には嫉妬の本能がある」いつからか一般人の知識にこ・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
出典:青空文庫