・・・あの高輪の方にあった御宅はどう成さいました」「高輪の家ですか。あれは君、実に馬鹿々々しい話サ……好い具合に人に胡麻化されて了いました……」 高瀬は先生の高輪時代をよく知っている。あの形勝の好い位置にあった、庭も広く果樹なども植えてあ・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・日本の文学の歴史は、三千年来それを行い、今後もまた、変る事なく、その伝統を継承する。 太宰治 「一つの約束」
・・・そこでまずかりに温泉なら温泉ときめて、温泉の部を少し詳しく見て行くと、各温泉の水質や効能、周囲の形勝名所旧跡などのだいたいがざっとわかる。しかしもう少し詳しく具体的の事が知りたくなって、今度は温泉専門の案内書を捜し出して読んでみる。そうする・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 抽象映画 スウェーデンの一画家がはじめた抽象映画は、幾何学的形象の運動の連鎖であって「動く装飾」と言われている。これは聴覚に関する音楽から類推して視覚的音楽を作ろうという意図から起こったものであろうが、これはおそら・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ただ、これから学位を取ろうとしている少数の若い学者と、それらの人々の学位論文を審査すべき位置にある少数の先輩学者との耳には一つの警鐘の音のように聞こえる言葉である。 しかし、この流行言葉を口にする人の中で、本当に学位濫造の事実があるかな・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・すればどんな病気でも大抵は軽症ですんでしまう。ところが、抵抗力の強い人は罹病の確率が少ないから統計上自然に跡廻しになりやすい、そうしてそういう人は罹っても少々のことではなかなか最初から降参してしまわない。そうして不必要で危険な我慢をし無理を・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 平泉の旧跡はなるほど景勝の地である。都市というものの発達するに恰好な条件を具えていて、しかもそれが極めて小規模な地形であるのは面白いと思われた。鎌倉やまたこの平泉などのこうした地形を見ると、昔の日本の人口の少なかった程度が推測されるよ・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
ここでかりに「縞模様」と名づけたのは、空間的にある週期性をもって排列された肉眼に可視的な物質的形象を引っくるめた意味での periodic pattern の義である。こういう意味ではいわゆる定常波もこの中に含まれてもいい・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・ 飯を食いながら女中の話を聞くと、せんだってなんとかいう博士がこの公園を見に来て、これはたいへんにいい所だからこの形勝を保存しなければいけないという事になり、さらに裏手の丘までも公園の地域を拡張する事になった。「そうなると私どもはここを・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・颱風もなければ烈震もない西欧の文明を継承することによって、同時に颱風も地震も消失するかのような錯覚に捕われたのではないかと思われるくらいに綺麗に颱風と地震に対する「相地術」を忘れてしまったのである。 ドイツの町を歩いていたとき、空洞煉瓦・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
出典:青空文庫