・・・もっと強烈ななまなましい対立する力の形象化をそこに感じる。だからステッキに就いて一つの小品を書いたとしても、私はそのような内容でそれを書くことは、私の気持ちの上から出来なくなって来ているのである。 この感情の再組織のことはプロレタリヤ文・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・ 同志貴司山治が『時事』に書いた文芸時評中にも、この作品を形象化の欠如という点からだけ批判し、「蟹工船」以後の発展、特に去年四月以後同志小林が行った本質的飛躍については触れていない。 同志小林が最近十ヵ月間の実践によって理論家と・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価によせて」
・・・この面は、プロレタリア文学の遺産の継承に関する討論と等しく、わたくしには非常に静的に論議されていると感じられました。例えば、組合の闘争において、権力との闘いにおいて、プロレタリアートの全線にプラスするどんな小さな成果も、わたしたちはそれを念・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・臼杵から先、中津の自性寺を見、福岡の友でも訪ねるか、いずれにせよ、軽少の財嚢に準じて謙遜な望みしか抱いていなかった。臼杵の、日向灘を展望する奇麗な公園からK氏の別荘へぶらぶら帰る時であった。Y、「どうする? やはり中津へ廻る?」「――ふうむ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・そして今日パブロフの偉大な発見の継承者たちは、人間という生物の発展に於ける独特な機能として、パブロフが発見した犬と等しい第一次命令体と共に、もっと深くもっと微妙に人間生活に影響する第二命令体のあることを証明した。犬はその餌を持って来る人が何・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・しかし、芸術家としての彼が遂に一大勇猛心をふるいおこして、小さい囲炉裏のような私一個の安心立命は思い捨て、この人生が彼にとって根本に寂しと観じられているならそれなり刻々の我が全生活をかけて、感覚と形象の世界へ突入してゆくことで天地の生気の諸・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・彼女の筆致はまだ粗く、人間像の内面へまで深く迫った形象化に不足する場合もある。しかし現実生活に根をおろして、階級的作家としての成長がつづけられるならば、この作家の力量はやがて少くない成果をもたらすであろう。 一九三九年ごろの軍需インフレ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・世界の人民的な民主主義の本質にしたがって、日本の民主主義文学運動もその主力を労働者階級の文学におき、世界と日本のプロレタリア文学運動の成果を批判し継承しながら、多様でひろい人民層の民主的意欲を表現する新鮮な文学をもとうとする方向に発足した。・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・作品に形象化された現実が人をうつのは、それが只実際そうであったというとおりに書き連ねられたからではないところに芸術の面白さがあると私は思う。我々がどちらかといえば粗忽に見すごして生きている社会の現実が、その錯綜と矛盾との生々した姿の本質にま・・・ 宮本百合子 「二つの場合」
・・・批判の精神の無私な努力だけが、世紀の諸相の示している歴史の制約と各自が属している社会層の限界との間にある相互的な矛盾や対立を自身のものとして作家に自省せしめるものであるし、文学作品そのものの形象的な統一のあらわれのうちにその矛盾や対立を克服・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
出典:青空文庫