・・・くこと大方ならず、かつまた塩文とびを買って来いという命令ではあったが、それが無かったのでその代りとして勧められた塩鯖を買ったについても一ト方ならぬ鬼胎を抱いた源三は、びくびくもので家の敷居を跨いでこの経由を話すと、叔母の顔は見る見る恐ろしく・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・これに反して今時の大多数の絵は、最初には自分の本当の感じから出発するとしても、甚だしいソフィスチケーションの迂路を経由して偶然の導くままに思わぬ効果に巡り会うことを目的にして盲捜りに不毛の曠野を彷徨しているような気がする。青く感じたものは赤・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・混沌たる明治文明の赴くところは大正年間十五年の星霜を経由して遂にこの風俗を現出するに至ったものと看るより外はない。一たび考察をここに回らせば、世態批判の興味の勃然として湧来るを禁じ得ない。是僕をして新聞記者の中傷を顧みず泰然としてカッフェー・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・この頃シベリアは郵便物が通れず通信すべてアメリカ経由でされている。このハガキは東京へ八月二十七日着している。殆ど四十日かかって、ハーフディンバアの沙翁の家の写真が母の許についたわけである。父がまだ出立しないうち、一夜本郷座でシェクスピアの「・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ この間ソ同盟の飛行機が北極を通過して一気に一万六百キロ翔んでカリフォルニアのサンジャシント飛行場へ着陸し、六十二時間九分で、北極経由モスクワ・北米間の「スターリン空路」を確立したことがあった。報道映画の世界的傑作の一つとして、シュミッ・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
出典:青空文庫