・・・そうすりゃ素人目にも快くおなんなすった解りが早くッて、結句張合があると思ったんですが、もうお医者様へいらっしゃることが出来たのはその日ッきり。新さん、やっぱりいけなかったの。 お医者様はとてもいけないって云いました、新さん、私ゃじっと堪・・・ 泉鏡花 「誓之巻」
・・・本義などという者は到底面白きものならねば読むお方にも退屈なれば書く主人にも迷惑千万、結句ない方がましかも知らねど、是も事の順序なれば全く省く訳にもゆかず。因て成るべく端折って記せば暫時の御辛抱を願うになん。 凡そ形あれば茲に意あ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・いわば、半生の懺悔談だね……いや、この方が罪滅しになって結句いいかも知れん。 そこでと、第一になぜ私が文学好きなぞになったかという問題だが、それには先ずロシア語を学んだいわれから話さねばならぬ。それはこうだ――何でも露国との間に、かの樺・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・書中乾胡蝶からになる蝶には大和魂を招きよすべきすべもあらじかし 結句字余りのところ『万葉』を学びたれど勢抜けて一首を結ぶに力弱し。『万葉』の「うれむぞこれが生返るべき」などいえるに比すれば句勢に霄壌の差あり。・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・退屈の余り凱旋の七絶が出来たので、上の桟敷の板裏へ書きつけて見たが、手はだるし、胸は苦しし遂に結句だけ書かずにしまった。その内にも船はとまって居るのでもないからその次の日であったかまた次の日であったのか午前に日本の見えるという処まで来た。日・・・ 正岡子規 「病」
・・・ 漸く話のわかって来た友達を失うと云う事は嬉しい事ではないので結句その方が流し元まで響き渡ってよかったのである。 ――○―― 其の日は随分暑かった。 明けられる「まど」は少し位無理をしたって開けっ放して客が・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫