・・・ 巨大な建造物に、強い土台がいるというようなことを云えば人は、わかり切ったこととするのだけれども、規模も内容も大きい新しい文学をつくるためには、作家がどれほどリアルな眼をもって洞察し評価し取捨して現実を再現しなければならないかということ・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・民衆宮とは日本よりの社会局役人をして垂涎せしむる石造建築と最初建造資金を寄附したミス・某々の良心的満足に向って捧げられている名前である。 門の方へ出て来ると、黒い水着を丸めて手に持った少年が番人に六ペンスはらって入って来た。水浴だ。黄色・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・姉はいたつきを垣衣、弟は我が名を萱草じゃ。垣衣は浜へ往って、日に三荷の潮を汲め。萱草は山へ往って日に三荷の柴を刈れ。弱々しい体に免じて、荷は軽うして取らせる」 三郎が言った。「過分のいたわりようじゃ。こりゃ、奴頭。早く連れて下がって道具・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫