・・・嘘でなきゃあ誰も子供のころの話なんか聞くものかという気持だったから、自然相手の仁を見た下司っぽい語り口になったわけ、しかし、そんな語り口でしか私には自分をいたわる方法がなかったと、言えば言えないこともない。こんな風に語ったのです。「……・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・僕ら素人眼にも、どうもこの崋山外史と書いた墨色が新しすぎるようですからね」 しかし耕吉の眼には、どれもこれも立派なものばかしで、たいした金目のもののように見えた。その崋山の大幅というのは、心地よげに大口を開けて尻尾を振上げた虎に老人が乗・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 先生の中二階からはその屋根が少しばかりしか見えないが音はよく聞こえる水車、そこに幸ちゃんという息子がある、これも先生の厄介になッた一人で、卒業してから先生の宅へ夜分外史を習いに来たが今はよして水車の方を働いている、もっとも水車といって・・・ 国木田独歩 「郊外」
・・・「日本外史とどっちがおもしろい」と僕が問うや、桂は微笑を含んで、ようやく我に復り、いつもの元気のよい声で「それやアこのほうがおもしろいよ。日本外史とは物が異う。昨夜僕は梅田先生の処から借りてきてから読みはじめたけれどおもしろうて止め・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・ 更に之をその内容より觀察するに、堯典には帝が羲・和二氏に命じて天文を觀測せしめ民に暦を頒ちしをいひ、羲仲を嵎夷に居らしめ、星鳥の中するを以て春分を定め、羲叔を南交にやりて星火の中するを以て夏至を定め、和仲を昧谷におきて星虚の中するを以・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・大谷さん、何ももう言いません、拝むから、これっきり来ないで下さい、と私が申しましても、大谷さんは、闇でもうけているくせに人並の口をきくな、僕はなんでも知っているぜ、と下司な脅迫がましい事など言いまして、またすぐ次の晩に平気な顔してまいります・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・のごろ、涙もろくなってしまって、どうしたのでしょう、地平のこと、佐藤さんのこと、佐藤さんの奥様のこと、井伏さんのこと、井伏さんの奥さんのこと、家人の叔父吉沢さんのこと、飛島さんのこと、檀君のこと、山岸外史の愛情、順々にお知らせしようつもりで・・・ 太宰治 「喝采」
・・・友人、山岸外史君から手紙をもらった。(「走れメロス」その義、神 亀井勝一郎君からも手紙をもらった。 友人は、ありがたいものである。一巻の創作集の中から、作者の意図を、あやまたず摘出してくれる。山岸君も、亀井君も、お座なりを言・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・先輩の山岸外史氏の説に依ると、貨幣のどっさりはいっている財布を、懐にいれて歩いていると、胃腸が冷えて病気になるそうである。それは銅銭ばかりいれて歩くからではないかと反問したら、いや紙幣でも同じ事だ、あの紙は、たいへん冷く、あれを懐にいれて歩・・・ 太宰治 「「晩年」と「女生徒」」
・・・十月号所載山岸外史の「デカダン論」は細心鏤刻の文章にして、よきものに触れたき者は、これを読め。「衰運」におくる言葉 ひややかにみづをたたへて かくあればひとはしらじな ひをふきしやまのあととも 右は・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫