・・・とうとうつかまって顔といわず着物といわずべとべとの腐泥を塗られてげらげら笑っている三十男の意気地なさをまざまざと眼底に刻みつけられたのは、誠に得難い教訓であった。維新前の話であるが、通りがかりの武士が早乙女に泥を塗られたのを怒ってその場で相・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・「は」「わ」と変わればやはり日本語になるからおもしろい。(L.)rideo, (Fr.)rire は少しちがうが「ら」行であるだけはたしかである。「げらげら笑ふ」「へらへら笑ふ」というから g+l や h+l のような組み合わせは全く擬音的・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
・・・そうして庭のすぐ横手の崖一面に茂ったつつじの中へそのピストルの弾をぽんぽん打ち込んで、何かおもしろそうに話しながらげらげら笑っていた。つつじはもうすっかり散ったあとであったが、ほんの少しばかりところどころに茶褐色に枯れちぢれた花弁のなごりが・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・ すると今の家の中やそこらの畑から、十八人の百姓たちが、げらげらわらってかけて来ました。「この野郎、きさまの電気のおかげで、おいらのオリザ、みんな倒れてしまったぞ。何してあんなまねしたんだ。」一人が言いました。 ブドリはしずかに・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・すると、しだいにあはははがげらげらに変って来て、人間の声ではもうなかった。何ものか人間の中に混じっている声だった。 自分を狂人と思うことは、なかなか人にはこれは難しいことである。そうではないと思うよりは、難しいことであると梶は思った。そ・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫