・・・が、宇宙を造るものは六十幾つかの元素である。是等の元素の結合は如何に多数を極めたとしても、畢竟有限を脱することは出来ない。すると是等の元素から無限大の宇宙を造る為には、あらゆる結合を試みる外にも、その又あらゆる結合を無限に反覆して行かなけれ・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・アララギ派の元素伊藤左千夫氏は正岡子規の弟子のうち一番鈍才であったが、刻苦のために一番偉くなった。一、よく考えて生きること。良い芸術は良い生活からしか生まれない。こんなことはいうまでもないことと思う。浅い生活をしていて良・・・ 倉田百三 「芸術上の心得」
・・・たとえば太古では世界は地、水、火、風の四からなりたっていると考えたが、その後化学的元素というものが確定され、漸次に新元素が発見され今は八十余の元素がいろいろ組合わされてあらゆる物質を構成していると考うるようになった、つい近頃までは元素は永久・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・このような分析によって若干の化け物の元素を析出すれば、他の化け物はこれらの化け物元素の異なる化合物として説明されないとも限らない。CとHとOだけの組み合わせで多数の有機物が出るようなものかもしれない。これも一つの空想である。・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・すなわち、まず、言語、国語という一つの体系は若干の語根元素から組成されていると仮定する。次には、この元素が化合して種々の言語や文章が組成されているが、これらの間にはその化合分解の平衡に関するきわめて複雑な方則のようなものがあると想像する。な・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・政府は、果して論者と思想の元素を殊にして、その方向まったく相反するものか。政府は、前にいえる廃藩置県以下の諸件を慊とせずして、論者の持張する改進の旨とまったく相戻るものか。あるいはかりに政府をして改進を悦ばざるものとするも、この事物の変革、・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・人間社会は家内の集まりたるものなり、その悪事の元素は早く家内にありて存するものなり。家内は社会の学校なり、社会にありて専制を働く者は、この学校の卒業生なり。故に曰く、社会の有様を改革せんと欲せば、先ずその学校を改革すべきなり。 前条に記・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・されば公徳の根本は一家の私徳にありて、その私徳の元素は夫婦の間に胚胎すること明々白々、我輩の敢えて保証する所のものなれば、男女両性の関係は立国の大本、禍福の起源として更に争うべからず。今日吾々日本国民の形体は、伊奘諾・伊奘冊二尊の遺体にして・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・いずれも皆、真理原則の敵にして、この勁敵のあらん限りは、改進文明の元素は、この国に入るべからざるなり。我が日本にもこの敵なきに非ざりしかども、偶然の事情によりて大いに趣を異にするところあり。我が国において、鬼神幽冥の妄説は、多くは仏者の・・・ 福沢諭吉 「物理学の要用」
・・・ ギリシア人たちが、生命は動く元素から成るといい、デモクリトスが原子論をとなえたのはひろく知られているが、その時から千三四百年経った今日では、電気が発見されていて、人間の生成をふくむ宇宙の諸関係というものがきわめて複雑な相互作用の千変万・・・ 宮本百合子 「幸福の感覚」
出典:青空文庫