・・・あいつがまだ浅草田原町の親の家にいた時分に、公園で見初めたんだそうだ。こう云うと、君は宮戸座か常盤座の馬の足だと思うだろう。ところがそうじゃない。そもそも、日本人だと思うのが間違いなんだ。毛唐の役者でね。何でも半道だと云うんだから、笑わせる・・・ 芥川竜之介 「片恋」
・・・ええ、あの公園の外にとまった、大きい黒塗りの自動車です。漆を光らせた自動車の車体は今こちらへ歩いて来る白の姿を映しました。――はっきりと、鏡のように。白の姿を映すものはあの客待の自動車のように、到るところにある訣なのです。もしあれを見たとす・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・と云う大講演をやったこともある。もっともその講演によれば、最近の亜米利加の大小説家はロバアト・ルイズ・スティヴンソンかオオ・ヘンリイだと云うことだった! スタアレット氏も同じ避暑地ではないが、やはり沿線のある町にいたから、汽車を共にする・・・ 芥川竜之介 「保吉の手帳から」
・・・…… 遠山の桜に髣髴たる色であるから、花の盛には相違ないが、野山にも、公園にも、数の植わった邸町にも、土地一統が、桜の名所として知った場所に、その方角に当っては、一所として空に映るまで花の多い処はない。……霞の滝、かくれ沼、浮城、もの語・・・ 泉鏡花 「瓜の涙」
・・・ その二の面の二段目から三段へかけて出ている、清川謙造氏講演、とあるのがこの人物である。 たとい地方でも何でも、新聞は早朝に出る。その東雲御覧を、今やこれ午後二時。さるにても朝寝のほど、昨日のその講演会の帰途のほども量られる。「・・・ 泉鏡花 「縁結び」
・・・……先祖代々の墓詣は昨日済ますし、久しぶりで見たかった公園もその帰りに廻る。約束の会は明日だし、好なものは晩に食べさせる、と従姉が言った。差当り何の用もない。何年にも幾日にも、こんな暢気な事は覚えぬ。おんぶするならしてくれ、で、些と他愛がな・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・ と真四角に猪口をおくと、二つ提げの煙草入れから、吸いかけた煙管を、金の火鉢だ、遠慮なくコッツンと敲いて、「……(伊那や高遠……と言うでございます、米、この女中の名でございます、お米。」「あら、何だよ、伊作さん。」 と女中が・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・食事を基礎として居る点が、最も社会と調和し易いからである、他の品位ある多くの芸術は天才的個人的に偏して、衆と共にするということが頗る困難であるから何人にも楽むということが出来ない処がある、茶の湯は奥に高遠の理想を持って居れど、初期に常識的の・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・お前の妹だッて、また公園で出なけりゃアならなくなったし、そうそうお前のことばかりにかまけてはいられないよ。半玉の時じゃアあるまいし、高が五十円か百円の身受け相談ぐらい、相対ずくでも方がつくだろうじゃアないか? お前よりも妹の方がよほど気が利・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 明治七、八年頃、浅草の寺内が公園となって改修された。椿岳の住っていた伝法院の隣地は取上げられて代地を下附されたが、代地が気に入らなくて俺のいる所がなくなってしまったと苦情をいった。伝法院の唯我教信が調戯半分に「淡島椿岳だから寧そ淡島堂・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
出典:青空文庫