・・・「ええ、ええ、もうこの辺はひどい高原ですから。」うしろの方で誰かとしよりらしい人のいま眼がさめたという風ではきはき談している声がしました。「とうもろこしだって棒で二尺も孔をあけておいてそこへ播かないと生えないんです。」「そうです・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。 春になると、北上の河谷のあちこちから、沢山・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・の銅鍋や青い焔を考えながら雪の高原を歩いていたこどもと、「雪婆ンゴ」や雪狼、雪童子とのものがたり。 6 山男の四月四月のかれ草の中にねころんだ山男の夢です。烏の北斗七星といっしょに、一つの小さなこころの種子を有ちます。・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・夢のような黒い瞳をあげてじっと東の高原を見た。楢ノ木大学士がもっとよく四人を見ようと起き上ったら俄かにラクシャン第一子が雷のように怒鳴り出した。「何をぐずぐずしてるんだ。潰してしまえ。灼いてしまえ。こなごなに砕い・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・諒安はうしろの方のうつくしい黄金の草の高原を見ながら云いました。その人は笑いました。「ええ、平らです、けれどもここの平らかさはけわしさに対する平らさです。ほんとうの平らさではありません。」「そうです。それは私がけわしい山谷を渡ったか・・・ 宮沢賢治 「マグノリアの木」
・・・作家石川達三は、文学者の戦争協力についての責任が追及されたとき、日本がもしふたたびあやまちを犯すことがあれば、自分もまたあやまちを犯すだろうと公言した作家であった。石川達三という人のこころのなかで、そのことばとこのことばとのあいだには、どう・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・去年、重治さん夫婦は富士見の高原へゆき、健坊たちは千葉の海岸へ行ったが、今年はどこもまだ釘づけです。資金思わしからずでね。 島田へは椅子をお送り申しました。お気に入って東京からよこしたといってはお見せになっている由。私も大変うれしい。そ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
枯草のひしめき合うこの高原に次第次第に落ちかかる大火輪のとどろきはまことにおかすべからざるみ力と威厳をもって居る。 燃えにもえ輝きに輝いた大火輪はその威と美とに世のすべてのものをおおいながらしずしずと凱歌を奏しながらこ・・・ 宮本百合子 「小鳥の如き我は」
・・・というふうに感じられそれを公言することが流行となり、ヒューマニズムという旗は、無軌道な人間感情の氾濫という安易な線に沿ってひらめいたのでありました。日本の近代精神において、ヒューマニズムがいわれる場合、ほとんど常に、それが感性的な面のみの跳・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ 乳しぼりの男 高原的な眼の輝きとかなり長い髪と白い手を持って居る男だ。 白い牝牛のわきに腰を下ろして乳をしぼって居る。 ふせたまつ毛は珍らしく長くソーッと富(かな乳房を揉んで前にある馬けつにそれをためた。・・・ 宮本百合子 「旅へ出て」
出典:青空文庫