・・・会則、綱領がないと公言されていることは、一人の男が、私に主義というものはありませんと告白したと同様本来この上なく危っかしいことなのである。別な言葉でいえば、その時々の風の吹きまわしに吹きまわされることをみずから語っているのである。アカデミッ・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 宣教師の娘であり、宣教師の妻であって、バックが、中国の民族的自立の必然を認め、中国の民衆の独自性を理解して中国にキリスト教と宣教師とは必要ないものであると公言していることは、実に一つの驚くべき人間的誠実である。彼女はこれらのものの性質・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ 息をはずませながら私は叔父の袂を引っぱって一足一足と踏みしめて、漸う最後の一歩を登り切ると、其処にはひろびろと拡がった高原が双手を延ばして私共を引きあげて居た。 私は生れてから此那にも草の一杯生えた、こんなにも人の居ない林のある処・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ ロシアは矛盾なく 公言される信条である。「人はロシアを理性をもってではなく、信仰をもって理解しなければならぬ」p.281○狂妄な帝国主義は驕傲を僧衣に包んで「神の御意なり」と叫ぶのである。○先ずもってわれわれヨーロッパの世界は、こ・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
荒漠たる原野――殊に白雪におおわれて無声の呪われた様な高原に次第次第に迫って来る夜はまことに恐ろしいほど厳然とした態度をもって居る。 灰色と白色との合するところに細く立木が並んで居るほか植物は影さえもなく町に通わなけれ・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・北方の春は短かく一時に夏景色になるわけなのに、この高原では、すべて徐々に、すべて反覆しつつ、追々夏になって来る。東京で桜が散った後は、もう一雨で初夏の香が街頭に満つが、ここでは、こうやって今日一日降りくらす、明日晴れる、翌日は又雨で、次の日・・・ 宮本百合子 「夏遠き山」
・・・しかし、その半面では西ヨーロッパと東ヨーロッパの対立を挑発し、また秘密計画Xと金権活躍を公言して、弱小国の人民の意志の買いしめを宣言して憚らない。 現代の独占資本という魔ものがひきおこすあらゆる混乱と矛盾を、魔もののしきたりの下で解決し・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・の組織やプログラムの内容が、今日の民衆に対して、益々自発的見解を社会事象に対して忌憚なく表明させるような方向へ作用しているか、否かを公平に省察すると共に、聴取者は素直に、積極的に、中央放送協会によって公言されている次の態度を身につけるべきで・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・午前二時三時となり、段々信州の高原にさしかかると、停車する駅々の雰囲気が一つ毎に、緊張の度を増して来た。在郷軍人、消防夫、警官などの姿がちらつき手に手に提灯をかざして、警備している。福井を出発する時、前日頃、軽井沢で汽車爆破を企た暴徒が数十・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・中にも弥一右衛門の二男弥五兵衛は鎗が得意で、又七郎も同じ技を嗜むところから、親しい中で広言をし合って、「お手前が上手でもそれがしにはかなうまい」、「いやそれがしがなんでお手前に負けよう」などと言っていた。 そこで先代の殿様の病中に、弥一・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫