・・・というよりも「飯を食ったり、酒を飲んだり、交合「じゃこの国にも教会だの寺院だのはあるわけなのだね?」「常談を言ってはいけません。近代教の大寺院などはこの国第一の大建築ですよ。どうです、ちょっと見物に行っては?」 ある生温かい曇天・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・たいへんやさしい王子であったのが、まだ年のわかいうちに病気でなくなられたので、王様と皇后がたいそう悲しまれて青銅の上に金の延べ板をかぶせてその立像を造り記念のために町の目ぬきの所にそれをお立てになったのでした。 燕はこのわかいりりしい王・・・ 有島武郎 「燕と王子」
・・・彦少名命を祀るともいうし、神功皇后と応神天皇とを合祀するともいうし、あるいは女体であるともいうが、左に右く紀州の加太の淡島神社の分祠で、裁縫その他の女芸一切、女の病を加護する神さまには違いない。だが、この寺内の淡島堂は神仏混交の遺物であって・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・死者を納れる石棺のおもてへ、淫らな戯れをしている人の姿や、牝羊と交合している牧羊神を彫りつけたりした希臘人の風習を。――そして思った。「彼らは知らない。病院の窓の人びとは、崖下の窓を。崖下の窓の人びとは、病院の窓を。そして崖の上にこんな・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・それからその前お茶の手前が上がったとおっしゃって、下すったあの仁清の香合なんぞは、石へ打つけて破してしまうからいいわ。 善平はさらに掛構いもなく、天井を見てにこにこ笑いながら、いやもう綱雄は実にあっぱれな男さ。 また、また、父様はも・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・ 英国でも、皇帝、皇后両陛下や、ロンドン市民から寄附をよこし、東洋艦隊や、カナダからの数せきの船は食糧を満さいして来ました。 支那では北京政府が二十万元を支出して送金して来た外、これまで米殻輸出を禁じていたのを、とくに日本のために、・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・義なんてのを大学の講壇で叫んで、時の文化的なる若い男女の共鳴を得たりしたようであったが、恋愛至上というから何となく高尚みたいに聞えるので、これを在来の日本語で、色慾至上主義と言ったら、どうであろうか。交合至上主義と言っても、意味は同じである・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・それから、御自身のお世嗣を。それから、妹さまを。それから、妹さまの御子さまを。それから、皇后さまを。それから、賢臣のアレキス様を。」「おどろいた。国王は乱心か。」「いいえ、乱心ではございませぬ。人を、信ずる事が出来ぬ、というのです。・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・それから、香合をほめる事などもあって、いよいよ懐石料理と酒が出るのであるが、黄村先生は多分この辺は省略して、すぐに薄茶という事になるのではあるまいか。聖戦下、贅沢なことを望んではならぬ。先生に於いても、必ずやこの際、極端に質素な茶会を催し、・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・ 青磁の香炉に赤楽の香合のモンタージュもちょっと美しいものだと思う。秋の空を背景とした柿もみじを見るような感じがする。 博物館などのように青磁は青磁、楽は楽と分類的に陳列してあるのも結構ではあるが、しかしそういう器物の効果を充分に発・・・ 寺田寅彦 「青磁のモンタージュ」
出典:青空文庫