・・・幾度もいうように、精神的向上の情熱と織りまじった恋愛こそ青年学生のものでなければならぬのだ。 かようにして志と気魄とのある青年は、ややもすれば甘いものしか好むことを知らない娘たちに、どんな青年が真に愛するに価するかを啓蒙して、わが心にか・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・の功利的満足を与えんとはせずに、常に彼らを高め、導き、精神的法悦と文化的向上とに生きる高貴なる人格たらんことをすすめ、かくて理想的共同体を――究竟には聖衆倶会の地上天国を建設せんがために、自己を犠牲にして奔命する者、これこそまことの予言者で・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ それが人間としての本当の向上というもので、ついには人間をこえたみ仏の位にまで達することができるので、そうなれば女人成仏の本懐をとげるわけである。そしてみ仏になるといっても、この人間のそのままであるところにさとりの極意があるのだ。 ・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・それによって生活の充実と向上とまた個性の発展とをはかるべきである。実際今日においては職業婦人は有閑婦人よりも、その生命の活々しさと、頭脳の鋭さと、女性美の魅力さえも獲得しつつあるのである。われわれの日常乗るバスの女車掌でさえも有閑婦人の持た・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・私の村には、労働者約五百人から、三十人ぐらいのごく小さいのにいたるまで大小二十余の醤油工場がある。三反か四反歩の、島特有の段々畠を耕作している農民もたくさんある。養鶏をしている者、養豚をしている者、鰯網をやっている者もある。複雑多岐でその生・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・県会議員が、当選したあかつきには、百姓の利益を計ってやる、というような口上には、彼等はさんざんだまされて来た。うまい口上を並べて自分に投票させ、その揚句、議員である地位を利用して、自分が無茶な儲けをするばかりであることを、百姓達は、何十日と・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
・・・ 三、反戦文学の恒常性 一 戦争反対の思想、感情を組織して、労働者農民大衆に働きかける文学は、戦争が行われている時にのみ必要であるか。戦争が起っていない平和な時期に於ては、戦争反対文学は必要ではないか?・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・初対面の時、じいさんとばあさんとは、相手の七むずかしい口上に、どう応酬していゝか途方に暮れ、たゞ「ヘエ/\」と頭ばかり下げていた。それ以来両人は大佐を鬼門のように恐れていた。 またしても、むずかしい挨拶をさせられた。両人は固くなって、ぺ・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・ところが源三と小学からの仲好朋友であったお浪の母は、源三の亡くなった叔母と姉妹同様の交情であったので、我が親かったものの甥でしかも我が娘の仲好しである源三が、始終履歴の汚れ臭い女に酷い目に合わされているのを見て同情に堪えずにいた上、ちょうど・・・ 幸田露伴 「雁坂越」
・・・足利氏の時にも相阿弥その他の人、利休と同じような身分の人はあっても、利休ほどの人もなく、また利休が用いられたほどに用いられた人もなく、また利休ほどに一世の趣味を動かして向上進歩せしめた人もない。利休は実に天仙の才である。自分なぞはいわゆる茶・・・ 幸田露伴 「骨董」
出典:青空文庫