・・・聰明に現実的に、自分たちの新しき構想の完成に努力しなければならないのである。 こういう心もちからいうと、どうしても、私たちは「板橋事件」強制供出その他一つらなりの食糧問題解決への場面で起った現象をももうすこし細かに観察し、学ぶべきことが・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・戦時中、愚劣とわかり野蛮とわかっていたファシズム治安維持法そのものに、まともに抗争しようとしなかった日本の知性の特色が、ここではっきり計量されている。第二次大戦を経たのちは、ファシズムの戦争挑発に対して、どの国の人民も抗議を感じている。しか・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・ という風な英雄像に彫り上げられた一塊の石にしかすぎぬものが、余り市民の崇敬を受けてその栄耀に傲慢となり、もとは一つ石の塊であった台座の石ころたちと抗争しつつ、遂に自身の地位に幻滅してこっぱみじんに砕けてゆく物語は、平静に、諷刺満々と語られ・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・く、広く小市民・インテリゲンチャ、進歩的な自由主義者の範囲にまで及んできて、民族の自立とその文化的な伝統さえ抹殺されはじめたとき、世界をとりまく反ファシズム、日本においては特に天皇制的なファシズムへの抗争、人民の力による民主主義革命の達成と・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・道のつき当りから山手にかかって、遙か高みの新緑の間に、さっぱりした宏壮な洋館が望まれる。ジャパン・ホテルと云うのはあれだろう。海の展望もありなかなかよさそうなところと、只管支那街らしい左右の情景に注意を奪われて居ると、思いがけない緑色の建物・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・個性の発展、知性の自由というものも、民主の民主的自立なしにありえないし、民主主義の達成は、ファシズムとの抗争なしにありえない。「両輪」から「三年たった今日」が書かれた期間に、日本では広い規模でファシズムと戦争挑発に対して日本人民としての独立・・・ 宮本百合子 「はしがき(『文芸評論集』)」
・・・の唯一の親友であった同時代の才能を素朴に驚歎して、一八三九年、四十にもなり、既に「人間喜劇」の構想を得て数年後であったバルザックが、小説「ベアトリス」の中に二年前ゴーチェが或る二人の女優について書いた記事からの文章をそっくり真似て借りている・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・イタリーを中心として起ったルネッサンス時代の経済的、政治的、文化的事情は、一九三二年の日本において、ソヴェト権力による社会主義社会建設を目ざして封建的軍事的絶対主義権力と抗争する日本のプロレタリア・農民のおかれている一般情勢とは全然性質の違・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・を称讚し、さすがは林房雄である。構想雄大で行文はいわゆるプロレタリア的でない清新の美に満ちていると、さながらその社会的根拠とともに創造性をも喪失したブルジョア文学の陣営内に一人の精力的な味方を発見し得たかのような喝采を送った。 わがプロ・・・ 宮本百合子 「文学に関する感想」
・・・バックはそこで原始的なものの上をいきなり近代の歴史にさらされている支那の悲劇とは全然ちがう現代アメリカの高層建築的悲劇を見出しているのである。ホームの「自覚された鋭い正直さ」というものをもたない人柄に対する妻のキットの精神的苦悩も、その悲劇・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
出典:青空文庫