・・・わたくしは専これらの感慨を現すために『父の恩』と題する小説をかきかけたが、これさえややもすれば筆を拘束される事が多かったので、中途にして稿を絶った。わたくしはふと江戸の戯作者また浮世絵師等が幕末国難の時代にあっても泰平の時と変りなく悠々然と・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・で、終には、親の世話になるのも自由を拘束されるんだというので、全く其の手を離れて独立独行で勉強しようというつもりになった。 が、こうなると、自分で働いて金を取らなきゃならん。そこであの『浮雲』も書いたんだ。尤も『浮雲』以前にも翻訳などは・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・もしそれ曙覧の人品性行に至りては磊々落々世間の名利に拘束せられず、正を守り義を取り俯仰天地に愧じざる、けだし絶無僅有の人なり。この稿を草する半にして、曙覧翁の令嗣今滋氏特に草廬を敲いて翁の伝記及び随筆等を示さる。因って翁の小伝を・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・このような些細なことに現れる不自由は、作家としての彼に闊達な振舞を内面的にも外部的にも拘束しがちであったろう。ドイツではゲーテが宰相であれ程の文学者であったというような例は、事情の違う日本では現在までの歴史の性質に於ては有り得ないのが自然と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・太陽をめぐる天体の運行が形容の例にとられ、そのような「拘束でない節制」を文化にもたらす組織として成立し、事業を物故文芸家慰霊祭、遺品展覧会、昨年度優秀文学作品表彰、機関誌『文芸懇話会』の発行とした。そして昭和九年度の文芸懇話会賞は会員である・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・刑事訴訟法二一八条二項に――容疑者の身柄を拘束した場合にのみ、強制的に指紋を採ることができる、とある。したがって、指紋と犯罪の容疑とは密着したものである。泡盛によっぱらって、留置場のタタキの上で一晩中あばれていただけの者が、警察にとまったか・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・政治ときくと、ただちに命令・統制・拘束を思って、手足をこわばらせ息をつめ、鞭を見た奴隷のように理解力を失い愚鈍に陥ってしまう。その同じ人々が、三十五倍の都民税をはらう義務は遂行し、所得を実質的には1/3にしてしまう所得税をはらい、言論抑圧に・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
* ソヴェトは恋愛が自由である。 フランスも自由である。 そこでどう違うかということは、資本主義末期の個人主義的に恋が御互を拘束しないということから起って来る恋愛の自由だ。 男が或る・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・そこでどう違うかというと、フランスが恋愛が自由だということは、資本主義末期の個人主義的に恋がお互を拘束しないということから起って来る恋愛の自由だ。男が或る女と関係して、嫌になって捨てる。女が姙娠しても男は責任を負わない。それでも女は訴えると・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 矢鱈に自由を拘束しない代りには、子供に悪感化を与える圏境からは出来るだけ遠ざかる。父が事務所に出勤し、一寸芝居でも見に出かけるには如何にも都合よい下町の家があったのだけれども、子供の為に、生理的、精神的に危険が多いから、自分達は着物一・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
出典:青空文庫