・・・とれるよりももっとどっさりの税をとられ、自殺する家族まで出るその金は公団その他にかすめとられ、もうとられるものはないと思っていたら、指紋があった。 新聞の記事は、まるで警官がもって歩く戸口調査簿のように、全都民の指紋は一般台帳にのせるの・・・ 宮本百合子 「指紋」
・・・ 文学に於けるこの問題はいずれ後段に触れられることだと思うが、当時のこの機運は、例えば婦人作家の誕生にも影響した。それまでの婦人作家が概して有産的な環境の中から生れ出ているに対して、この時代の潮は勤労的な生活の中から婦人作家を誘い出して・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・学とそこに語られている心情は当時の全国民のものであるという断定での、貴族のエティケットが農民にまで及んでいるのが日本の性格であるというような結論は、何となく読者にうけがいがたいばかりでなく、筆者自身、後段の「日本文化の成立」の中では、そのよ・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・私はこのことをもう一度後段でとりあげたいと思うが、荷風が往年特徴としたデカダンスの張りあいない腰をおとした作家的態度を見すごすことは、何か後輩の大人らしさという風にポーズされ、この「ひかげの花」は「春琴抄」とならんで、一般文学愛好家の間にま・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・そして、こんにち、公団の腐敗その他、特権に必ずつきまとっている不正な利得、人民の富の奪取を、どうしようもない政治の無能の反映でもある。 文学の面でも、最近、明治からの現代古典を体系的に見直してゆこうとする一つの傾向があらわれている。・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・の関係者を起訴されるなら、それより幾千倍かの人々の不信と怒りを買っている公団の腐敗についての責任が明瞭にされることを欲します。日本の検察力を発揮しようとするならば、昨年初夏の怪死事件について、日本の検察として、明らかにするべき点を明らかにさ・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・何某の講談は塩原多助一代記の一節で、その跡に時代な好みの紅葉狩と世話に賑やかな日本一と、ここの女中達の踊が二組あった。それから饗応があった。 三間打ち抜いて、ぎっしり客を詰め込んだ宴会も、存外静かに済んで、農商務大臣、大学総長、理科大学・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・それが落成すると、六十一になる父滄洲翁と、去年江戸から藩主の供をして帰った、二十九になる仲平さんとが、父子ともに講壇に立つはずである。そのとき滄洲翁が息子によめを取ろうと言い出した。しかしこれは決して容易な問題ではない。 江戸がえり、昌・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫