・・・此の時には校長と次席訓導とが二人がかりで私を調べた。どういう気持で之を書いたか、と聞かれたので、私はただ面白半分に書きました、といい加減なごまかしを言った。次席訓導は手帖へ、『好奇心』と書き込んだ。それから私と次席訓導とが少し議論を始めた。・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・二十年以上も勤めて、それでも校長になれないんだ。頭が悪いんだよ。息子の僕にさえ、恥ずかしがっているんだよ。生徒も、みんな、ばかにしているんだ。マンケという綽名だよ。だから、僕は、偉くならなくちゃいけないんだ。」「小学校の先生が、なぜそん・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・四辺の山々の姿も、やはりなんだか汗ばんで、紅潮しているように見えるのである。甲府の火事は、沼の底の大焚火だ。ぼんやり眺めているうちに、柳町、先夜の望富閣を思い出した。近い。たしかにあの辺だ。私はすぐさま、どてらに羽織をひっかけ、毛糸の襟巻ぐ・・・ 太宰治 「新樹の言葉」
・・・かれの宿直をした室、いっしょに教鞭を取った人たち、校長、それからオルガンの前にもつれて行ってもらった。放課後で、校庭は静かに、やはり同じようにして、教師や生徒がボールなどをなげていた。 弥勒の村は、今では変わってにぎやかになったけれども・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・もっともこの関係は歌舞伎でも同様なわけであろうが、人形芝居において、それがもっとも純化され高調されているように思われるのである。 次の幕は「葛の葉の子別れ」であった。畜生の人間的恩愛を描いたこの悲劇の不思議な世界の不思議な雰囲気も、やは・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・これが顔の線と巧みに均衡を保ってそのためにかえって複雑な音楽的の美しさを高調している。懐月堂のふくれた顔の線は彼の人物の体躯全体としての線や、衣服のふくらみの曲線となって至るところに分布されて豊かな美しさを見せている。 次に重要なものは・・・ 寺田寅彦 「浮世絵の曲線」
・・・溝淵氏は自分等の中学時代に『ラセラス伝』を教わった先生であって、その後ずっと高等学校長を勤めておられたがこれもついごく最近に亡くなられた。 もう一つ、自分の学生時代に世話になった銀座のある商店の養子になっていた人から聞いた話によると、そ・・・ 寺田寅彦 「埋もれた漱石伝記資料」
・・・アメリカふうのスター映画でさえも、画面に時々しか顔を出さないエキストラのタイプの選択いかんによって画面の効果は高調されあるいは減殺される。 背景となるべき一つの森や沼の選択に時には多くの日子と旅費を要するであろうし、一足の古靴の選定には・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうしてその単純明白なモチーフが非常に多面的立体的に取り扱われているために、同じものの繰り返しが少しの倦怠を感ぜしめないのみならず、一歩一歩と高調する戯曲的内容を導いて最後の最頂点に達するまでに観客の注意の弛緩を許さないのであろう。 こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは涜職者を出すから小学校長を全廃せよ、腐った牛肉で中毒する人があるから牛肉を食うなというような議論ではないかと思われる。 こんな事件が起るよりずっと以前から「博士濫造」という言葉が流行していた。誰が云い出した言葉か知れないが、こうい・・・ 寺田寅彦 「学位について」
出典:青空文庫