・・・ 大山鳴動して一鼠が飛び出したといったようなときの笑いは理知的であり、校長先生の時ならぬくしゃめが生徒の間に呼び起こす笑いなどには道徳的の色彩がある。喜怒愛憎の高潮に伴なう涙は理知や道徳などとは関係の薄い情緒的のものであるが、哀別離苦の・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・喜怒愛憎の高潮に伴なう涙は理知や道徳などとは関係の薄い情緒的のものであるが、哀別離苦の焦心の涙にはよほど本能的なものがあって、純粋な肉体の苦痛によるものとかなりまで相通ずるものがありそうに思われる。 いずれにしても、笑う前と泣く前とでは・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ひいきということがあって始めて相撲見物の興味が高潮するものだということをこの時に始めて悟ったのであった。夜熊本の町を散歩して旅館研屋支店の前を通ったとき、ふと玄関をのぞき込むと、帳場の前に国見山が立っていて何かしら番頭と話をしていた。そのと・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・しかし実際の科学の通俗的解説には、ややもするとほんとうの科学的興味は閑却されて、不妥当な譬喩やアナロジーの見当違いな興味が高調されやすいのは惜しい事である。そうなっては科学のほうは借りもので、結果はただ誤った知識と印象を伝えるばかりである。・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・ 今度の大阪や高知県東部の災害は台風による高潮のためにその惨禍を倍加したようである。まだ充分な調査資料を手にしないから確実なことは言われないが、最もひどい損害を受けたおもな区域はおそらくやはり明治以後になってから急激に発展した新市街地で・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・この方法が西欧で自覚的にもっぱら行なわれこれが本来の詩というものの本質であるとして高調されるに至ったのは比較的新しいことであり、そういう思想の余波として仏国などで俳諧が研究され模倣されるようになったようである。しかしこの方法の極度に発達した・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ とにかく、その突然の変化の起こったのは浜口内閣の緊縮政策の高潮に達したころであったので、この政策と切符の紙質の変化とになんらかの連関がありはしないかと考えてみたことがあった。 事実はとにかく、このような連関は鉄道省とそれを統率する・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・ お絹の説明によると、おひろは踊りもひとしきり高潮に達した時期があって、お絹自身が目を聳てたくらいだったが、やっぱりいろいろな苦労があって、芸事ばかりにも没頭していられなかった。「今の人はほんとに、ちょろつかなもんや。私に限らず、家・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・インスピレーションの高調に達したといおうか、むしろ狂気といおうか、――狂気でも宜い――狂気の快は不狂者の知る能わざるところである。誰がそのような気運を作ったか。世界を流るる人情の大潮流である。誰がその潮流を導いたか。とりもなおさず我先覚の諸・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・各小学校の校長先生たちや、郡長さん始め、県の役人なども沢山いるところで、私たちは非常に面目をほどこしてから、受持の先生に引率されて帰ってきたが、それから林と私はますます仲良しになった。 あるとき林の家へいって遊んでると、林が大きな写真帳・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
出典:青空文庫