・・・坪井博士の説ではトサはやはりチャム系の言葉で雨嵐の国だそうである。これだとあまり有難くない国である。高知 これは従来の説では、河内すなわちデルタだそうである。坪井博士の説ではチャム語で島である。しかしアイヌだと「コッチ」「コ・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・大河内 「ウーコッ」川の合流。甲殿 「コタン」は村。またマレイで「コタ」は町。またビルマ語で「コーンダーン」は小さき山脈。和喰 「ワシ」波浪「ケプ」破れる。また「ケ」場所。奴田 「ヌ」頂の平たき山「タプ」円頂丘。日下 「・・・ 寺田寅彦 「土佐の地名」
・・・ 中学時代に、京都に博覧会が開かれ、学校から夏休みの見学旅行をした。高知から三、四百トンくらいの汽船に寿司詰になっての神戸までの航海も暑い旅であった。荷物用の船倉に蓆を敷いた上に寿司を並べたように寝かされたのである。英語の先生のHという・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・自分よりは一つ年上の甥のRと二人で高知から室戸岬まで往復四、五日の遠足をした。その頃はもちろん自動車はおろか乗合馬車もなく、また沿岸汽船の交通もなかった。旅行の目的は、もしも運がよかったら鯨を捕る光景が見られるというのと、もう一つは、自分の・・・ 寺田寅彦 「初旅」
・・・三月三日に井伊大老の殺された報知が電信も汽車もない昔に、五日目にはもう土佐の高知に届いたという事実がある。今なら電報ですぐ伝わる。 知名の人の旅立ちでも、新聞があるために妙な見送り人が増して停留場が混雑する。この場合にも前と同じ事が言わ・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
夕凪は郷里高知の名物の一つである。しかしこの名物は実は他国にも方々にあって、特に瀬戸内海沿岸にこれが著しいようである。そうして国々で○○の夕凪、□□の夕凪といって他の名物を自慢するように自慢にしているらしい。普通は特有な好・・・ 寺田寅彦 「夕凪と夕風」
・・・ 高知も夕なぎの顕著なところで正常な天気の日には夜中にならなければ陸軟風が吹きださない。それに比べると東京の夏は涼風に恵まれている。ずっと昔のことであるが、日本各地の風の日変化の模様を統計的に調べてみたことがある。この結果によると、太平・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・たとえば、私が鮓を食うときにその箸にかび臭いにおいがあると、きっと屋形船に乗って高知の浦戸湾に浮かんでいる自分を連想する。もちろんこれは昔そういう場所でそういう箸で鮓を食った事があるには相違ないが、何ゆえにそういう一見些細なことがそれほど強・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
自分の出生地は高知県で、始め中学の入学試験に応じたのは十四の年、ちょうど高等三年生の時であった。その中学というのは今の高知県立第一中学である。日ごろからだがあまり健康のほうではなく、それに勉強もろくろくせなかったためだろう・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・「ここの電話じゃ急のことには埒があかないから、わたしお隣の緑軒でかけてきましたわ」お絹はそう言って、鼻頭ににじみでた汗をふいていた。 辰之助は序幕に間に合った。「河内山」がすんで、「盛綱陣屋」が開く時分に、先刻から場席を留守にし・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫