・・・が、不思議に新らしい傾向を直覚する明敏な頭を持っていて、魯文門下の「江東みどり」から「正直正太夫」となると忽ち逍遥博士と交を訂し、続いて露伴、鴎外、万年、醒雪、臨風、嶺雲、洒竹、一葉、孤蝶、秋骨と、絶えず向上して若い新らしい知識に接触するに・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・ 本所を引払って、高等学校の先きの庭の広いので有名な奥井という下宿屋の離れに転居した頃までは緑雨はマダ紳士の格式を落さないで相当な贅をいっていた。丁度上田万年博士が帰朝したてで、飛白の羽織に鳥打帽という書生風で度々遊びに来ていた。緑雨は・・・ 内田魯庵 「斎藤緑雨」
・・・キリストを信ずるの道を聴く、時にパウロ公義と樽節と来らんとする審判とを論ぜしかばペリクス懼れて答えけるは汝姑く退け、我れ便時を得ば再び汝を召さん、とある、而して今時の説教師、其新神学者高等批評家、其政治的監督牧師伝道師等に無・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・と、海の中の子供がききますから、正雄さんは、「僕は高等三年だよ。」と答えました。「僕は今年四年生だ。いちばん修身と歴史が好きだよ。君は? ……」 正雄さんも歴史は大好きなもんですから、「僕も歴史は好きだ。やはり海の学校の読本・・・ 小川未明 「海の少年」
・・・ ところが、大宝寺小学校の高等科をやがて卒業するころ、仏壇の抽出の底にはいっていた生みの母親の写真を見つけました。そして、ああ、この人やこの人やというおきみ婆さんの声を聴きながら、じっとその写真を見ているうちに、私は家を出て奉公する決心・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・その点は大丈夫だと、道子はわざわざ東京の学校へ入れてくれた姉の心づくしが今更のように思い出された。 志願書を出して間もなく選衡試験が行われる。その口答試問の席上で、志願の動機や家庭の情況を問われた時、「姉妹二人の暮しでしたが……。」・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・「私が高等学校の寄宿舎にいたとき、よその部屋でしたが、一人美少年がいましてね、それが机に向かっている姿を誰が描いたのか、部屋の壁へ、電燈で写したシルウェットですね。その上を墨でなすって描いてあるのです。それがとてもヴィヴィッドでしてね、・・・ 梶井基次郎 「Kの昇天」
・・・これまで彼は父母の意に従って高等学校に入るべき準備をしていた時でも、三角に対する冷淡は画に対する熱心といつも両極をなしていた。さらにさかのぼって、彼の小学校にある時すら彼は画のみを好んでおったのを自分は知っている。この少年に向かって父母は医・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・ペーガン的恋愛論者がいかに嘲っても、これが恋愛の公道であり、誓いも、誠も、涙も皆ここから出てくるのだ。二人の運命を――その性慾や情緒をだけでなく――ひとつに融合しようとするものでなくては恋愛ではない。この愛らしの娘は未来のわが妻であると心に・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・現実の心得としては、おそらくさきに述べたような私の高等的忠言よりも、「読むべし、読むべし」と鞭撻すべきかもしれない。読みすぎることをおもんぱかるのは現代学生の勤勉性を少しく買いかぶっているかもしれない。 生と観察との独自性を失わない限り・・・ 倉田百三 「学生と読書」
出典:青空文庫