・・・経済矛盾の大きい社会ほど、売淫は多様広汎になって来る。ベルリンに、日本に、売笑のあらゆる形態が生れ出ていることは、ファシズムの残忍非道な生活破壊の干潟の光景である。独善的に民族の優越性や民族文化を誇張したファシズム治下の国々が、ほかならぬそ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・は、私たち素人の目では、前半、後半とテーマがわかれていた感じである。文芸映画としてのよりどころは、後半にあったと思うが、後半での妻の演技的迫力がもう一つ足りなかったので、誠意はあるにかかわらず心理的な動きのボリュームが減った。 この頃は・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・関係のなかで発揮された一個人甚兵衛の彼にとって最も効果的な命のすてかた、敵の殺しかたとして観察しているのであって、そのような機会をつかんだ甚兵衛の辛辣な笑いに表現された復讐の対象に、象徴されるべきより広汎なものは掴んでいない。「義民甚兵・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・それと同様に、一応野望的な作家の心に湧いたより活溌な、より広汎な、より社会的な文学行動への欲望が、その当然な辛苦、隠忍、客観的観察、現実批判の健康性を内外から喪失して、しかも周囲の世俗の行動性からの衝撃に動かされ、作家のより溌剌な親しみのあ・・・ 宮本百合子 「おのずから低きに」
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判所は此一人の女優の生涯に起った悲しい出来事・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・二万円の区切りは今日の円で二千円だといえばきわめて広汎な家庭が包括されて来るのである。 実にわかりやすく懐に突込まれる手の形を解説されたのであるが、主婦たちは、どんな感想をもって、これを聴いたであろうか。税のことは男の世界のこととして聴・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・檄はマルクスと二人の同志とを叛逆罪として起訴する種に使われた。公判の結果、一同無罪となった。 これはイエニーにとって貴重な経験であった。良人カールとその同志たちの行動は「実に犯してよい行動、本来からいえばブルジョアジーの果すべき義務であ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・を折角訳された神近さんが、原本の後半をすこしのこして「物理の発達」という章を割愛されたというのは、残念千万なことだったと思う。物理のことが語られていたのなら、あるいは数学の発達の歴史の物語も、同じように割愛された頁の中に入っていたのではなか・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・又は、後半の狂言風な可笑しみで纏め、始めの自責する辺などはごくさらりと、折角、一夜を許し、今宵の月に語り明かそうと思えば、いかなこと、この小町ほどの女もたばかられたか、とあっさり砕けても、或る面白味があっただろう。 行き届いて几帳が立て・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ 四年間のキュリー夫人の活動がどんなに激しく広汎であったかということは、小さい娘であったエーヴの書く手紙の宛名が、一通毎に母の移動先へと数限りなく動いて書かれていることでも語られている。古い服の袖に赤十字の腕章をピンで止めたきりの普・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
出典:青空文庫