・・・だが、どうして、プロレタリア作家と自分等とをそんなに別々に対立するような口吻で区別するのだろう。 続けて、相手が質問した。「あなた、ロシアの田舎を知っていますか?」「大してよく知ってはいないが、あっちこっち旅行はしました」「・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・の政談傍聴禁止がしかれるまで、成田梅子、村上半子、景山英子らの活溌な動きがあったのだが、岸田俊子にしろ当時の自由党員中島長城と結婚してからは、自分の過去の政治活動をあまりよろこばしい回想とはしていない口吻であったことが語られている。俊子の生・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・この人の文章を読むと、作家というものに対して筆者の抱いている評価、理解の低俗さに、どんな作家でも芸術の階級性以前の問題として一種の公憤を感ずるであろうと思う。 リオンスの作家観をもってすれば、芸術院へ入ることを正宗白鳥氏がことわったこと・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 私のようなものが、お前にお礼を云うのさえ、ほんとなら有難すぎることなのだという口吻が、ありありと言葉の端々に現われているけれども、禰宜様宮田はちっとも不当な態度だと思わなかったのみならず、彼女がほのめかす通り、お礼などを云われるのはも・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ けれども、若しその公憤を具体化そうとでも云えば、彼等は互に顔を見合わせながら、「はあ…… 相手がわれえ……」と尻込みをして、一人一人コソコソと影を隠してしまうだろう。 それ等の同情も、いざという肝腎の場合にはさほどの役・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・半分、いやいや恩にきせたような母上の口吻を、自分は下等に感じた。彼女が自分の口から、来るな、会わない、と迄云い切ったのを、今更取り消し、折れることが、如何に、性格として不可能かは判って居る。其故、彼女を立て、此方から、被来って下さいと云うの・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・新聞の脱税事件、収賄事件に公憤を感じざるを得ない允子である。息子に真理を教えようとして、今日の日本の母としては最も進歩的に性の教育にさえのり出した母であった。パーウェルの母のように出来ないことは、彼女の小市民としての環境からうなずけるとして・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・今日の社会の現実は、白面な常識を持った人間に、或る種の公憤を感じさせずにはいない様々の事実に満ちている。文化の上に現れている愚劣な地方主義にしろ、科学性の蹂躙にしろ、インテリゲンツィアの最も本質である知性の正当な発動に対する相剋が歴然として・・・ 宮本百合子 「若き時代の道」
・・・そして殆ど大人の前に出た子供のような口吻で、声低く云った。「所詮父と妥協して遣る望はあるまいかね。」「駄目、駄目」と綾小路は云った。 綾小路は背をあぶるように、煖炉に太った体を近づけて、両手を腰のうしろに廻して、少し前屈みになって立・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・朝夕平穏な時がなくなって、始終興奮している。苛々したような起居振舞をする。それにいつものような発揚の状態になって、饒舌をすることは絶えて無い。寧沈黙勝だと云っても好い。只興奮しているために、瑣細な事にも腹を立てる。又何事もないと、わざわざ人・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫