・・・淫祠の興隆は時勢の力もこれを阻止することが出来ないと見える。 行手の右側に神社の屋根が樹木の間に見え、左側には真暗な水面を燈火の動き走っているのが見え出したので、車掌の知らせを待たずして、白髯橋のたもとに来たことがわかる。橋快から広い新・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・卵のところを離れず、いつもヒレを動かしながら、水をきれいに交流させる。外敵が来ると、これとたたかう。試みに、私は指を水中の卵のところへさし入れてみた。すると、父親ドンコが頭を指にぶっつけて来て押しのけようとする。それでも、なお指を近づけよう・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・当時日本の資本主義は小規模ながら興隆期にさしかかっていて、日本の中産階級が経済能力を増してきていた頃、福沢諭吉がいうとおり、今日のブルジョア民法としての民法改正が行われ封建差別がとりはらわれたのならば、たしかに今のままの条文を適用されるよう・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・生活的な面では住んでいるアメリカのプロレタリア大衆とも、故国日本の革命的大衆ともなんら切実な交流を持っていない。ポッツリ切りはなされている亀のチャーリーという男が、ニューヨークには、ほかの日本人労働者も学生も商人もいるであろうのに、それらと・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・歴史のありのままの表現で語れば、日本のおくれた資本主義は、日清戦争から十年後に経たこの侵略戦争で再び中国の国土を血ぬらし殖民地化しながらその興隆期に入ったわけであった。ウラルの彼方風あれて、とオルガンに合わせて声高くうたっていた若い母に、そ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・そして、このケーテの内部に交流しているシムボリックな傾向が婦人画家としての彼女に、フライリヒラアツの詩やハウプトマンなどの文学作品から、モティーフを刺戟された題材の版画集を創造させた。しかも芸術作品として彼女のそれらの製作を傑出させているの・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ 自分たちでやっている以上、そういう人々が相談して、最も合理的な方法、村と都会との間の生活必需品の交換として、農村生産物と工業生産物との交流を、組織的に円滑にゆくようにしたらば、どうだろうかと考えてみる。すると、その一つが環となって、夥・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・十九世紀は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・一人当り一ヵ年二八円九四銭 第十二工場 製カン、鋳物、ガス溶接屋 二〇九名 第八工場 変圧器製造 六五〇名 第七工場 直流、交流発電キ 電キ機関車 五〇〇 第五工場 小型モーター セン風機・・・ 宮本百合子 「工場労働者の生活について」
・・・「拘留ついた?」「中川の奴、二十日だって。……ブル新、盛に『コップ』をデマっているらしいよ」「ほか、無事かしら」「わかんない。……でも」 一寸言葉を区切り、やや早口で、「――無事らしいね」 彼が誰のことを云ってい・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫