・・・これを日本国民が二千年来この生を味うて得た所のものと国民性に結びつけて難かしく理窟をつける処に二葉亭の国士的形気が見える。 だが、同じ日本の俗曲でも、河東節の会へ一緒に聴きに行った事があるが、河東節には閉口したらしく、なるほど親類だけに・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・目の下に小さな黒子があって、まるまるとよくふとっていました。歩くときは、ちょうど豚の歩くようによちよちと歩きました。 おじいさんは、かつて怒ったことがなく、いつもにこにこと笑って、太い煙管で煙草を喫っていました。そのうえ、おじいさんは、・・・ 小川未明 「犬と人と花」
・・・ 夜業禁止や、時間制により、工場はある不幸な児童等は救はれたのであるが、尚、眼に見えざる場処に於ての酷使や、無理解より来る強圧を除くには、社会は、常に警戒し、防衛しなければならぬであろう。そして、積極的に彼等がいかなる、境遇に置かれつゝ・・・ 小川未明 「児童の解放擁護」
・・・昔から、手の下の罪人ということわざの如く、強い者が、感情のまゝに弱い者に対する振舞というものは、暴虐であり、酷使であり、無理解であった場合が多かったようです。即ち、彼等の親達もしくは主人が、社会から受ける物質上、または精神上の貧困と絶望とは・・・ 小川未明 「近頃感じたこと」
・・・ たとえば、屠殺場へ引かれて行く、歩みの遅々として進まない牛を見た時、或は多年酷使に堪え、もはや老齢役に立たなくなった、脾骨の見えるような馬を屠殺するために、連れて行くのを往来などで遊んでいて見た時、飼主の無情より捨てられて、宿無しとな・・・ 小川未明 「天を怖れよ」
・・・ 自身攻撃されるのを防ぐために、有名人を攻撃するという、いわば相手の武器をとって、これを逆用するにも似た、そんなやり口を見て、おれは、さすがに考えやがったと思ったが、しかし、その攻撃文に「国士川那子丹造」という署名があるのを見て、正直な・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ 戯曲ではチェーホフ、ルナアル、ボルトリッシュ、ヴィルドラック、岸田国士などが好きで、殆んど心酔したが、しかし、同じクラスに白崎礼三という詩人がいて、これと仲が良く、下宿も同じにしていたくらいだったから、その感化でランボオやヴァレリーや・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・で彼は、彼等の酷使に堪え兼ねては、逃げ廻る。食わず飲まずでもいゝからと思って、石の下――なぞに隠れて見るが、また引掴まえられて行く。……既に子供達というものがあって見れば! 運命だ! が、やっぱし辛抱が出来なくなる。そして、逃げ廻る。……・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・彼は仏子であって同時に国士であった。法の建てなおしと、国の建てなおしとが彼の使命の二大眼目であり、それは彼において切り離せないものであった。彼及び彼の弟子たちは皆その法名に冠するに日の字をもってし、それはわれらの祖国の国号の「日本」の日であ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・懐手をして、彼等を酷使していた者どものためだ。それは、××××なのだ。 敵のために、彼等は、只働きをしてやっているばかりだ。 吉永は、胸が腐りそうな気がした。息づまりそうだった。極刑に処せられることなしに兵営から逃出し得るならば、彼・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
出典:青空文庫