・・・六〇万人以上の未亡人と一二万人の孤児と六〇万の戦争による不具者とが生じたのであった。 第二次世界大戦の間じゅう、他の諸国ではその恐しい戦争の底を縫って、国際的な友交が保たれていた。ナチス占領下のフランスで、フランス人民の自由と文化を守ろ・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・芸術家として自己を守り立てようと決心したからは、その力をレデュースし、そのロフティーネスを辱しめるような、あらゆる物は、仮令世上の如何な高貴であっても固辞しようと思ったのだ。 処が、暫く暮して見、自分は、種々な不自由さが、我心の裡に植え・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 又、近頃堀口大学氏の手で「孤児マリイ」「光ほのか」「マリイの仕事場」と三つの小説が翻訳されたフランスの婦人作家マルグリット・オオドゥウの生活と作品なども、知性というものについて考えさせる多くのものをもっている。 オオドゥウは中部フ・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・ そこへ思いもかけず、学者の孤児となった淑貞がひきとられ育てられることとなった。彼女は「柳の花のように」C女史の「感情の園生に飛びこんだ」 十年の間C女史の身辺で、「あたかも静かな谷間の流れのようであった」淑貞はC女史にとって「天使・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・長崎の市を、何等史的知識なく一巡した旅客の記憶にも確り印象されるのは、この水に配された石橋の異国的な美や古寺の壮重な石垣と繁った樹木との調和等ではあるまいか。長崎には夥しく寺がある。その寺々が皆港を見晴らす山よりに建てられて居る。沢山の石段・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、手下どもに己を誇示したかったのとが、偶然この少年をして「殴られる彼奴」にした原因だ。帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつけられた隠し切れない旗じるしをひどく迷惑に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 東郷侯爵家から警察を通じて、良子嬢をとりまいた五人の平民の若者にお礼として五十円ずつよこされ、狐につままれたような気持で固辞するのを強いても握らされて帰宅したという記事や又、当時そうとは知らずに勿体ないことをした、と洩した客の言葉など・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・元帥ほどの人物が、そこを見落していなかったことは、彼の日常生活の簡素な心がけや、歴史の上に箇人的武勇を誇示することを嫌ったというところにあらわれていると見ることが出来る。 ところが、元帥をかこむ社会関係においてその心持は、常に十分活かし・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・数百万の戦争未亡人・孤児の生涯は見殺しながら、三月八日の婦人デーはごまかして、三月は日本の雛祭り、とお客さまにお目にかける態度の卑屈さをいきどおり赤面しない婦人たちがあるだろうか。メーデーには棍棒隊をくり出させて、端午は日本の男の節句と他方・・・ 宮本百合子 「婦人デーとひな祭」
・・・いつも、自分の方にはこういうものがある、どうだ、という誇示した形でそれを示します。自分の歴史に科学的な客観的な評価がもてないのです。なるほど、レオナルド・ダ・ヴィンチは、ルネッサンス時代の大天才の一人であり、その綜合的な独創性は冠絶したもの・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫