・・・ 著者としてこれらの成果については謙遜ならざるを得ないのだけれども、今日文化の価値を知り文学を愛そうとするあらゆる人々の胸中の思いと、共に語るに堪えるだけの命は湛えていると信じる。波瀾の間に、より健全な文化への発展の希望は決して見失われ・・・ 宮本百合子 「序(『文学の進路』)」
・・・専門で分れ、文化面、生産面という活動場面で細分されている人民層である間は、抑圧とすべての形での非人間的圧迫に堪える力が弱い。このことは、人民よりも支配者たちがよく知っている。現に労働法の改悪は、日本の労働組合の分裂作業が効果を現わしてからで・・・ 宮本百合子 「前進的な勢力の結集」
・・・から叫ばれるスターリンの激励演説とそれに応える数百万の勤労者の歓呼の声が轟くであろう。 諸君。われわれにもその確信と闘争に満ちたソヴェト同盟のプロレタリアの叫びが聴えるようではないか。よしゴルロフカ「労働宮」はまだわれわれのところに無い・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・と応える。 目覚め、力づけられて活き出そうとする天地の中に、雄鴨は、昨日の夜中と同様に、音なしく仰向き卵色の水掻きをしぼませ、目を瞑って、繩に喰いつかれて居るのである。 彼の薄い瞼一重の上に、太陽は益々育ち始めた。・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・あるときに、ひろ子を殆ど涙ぐませるのは、その共感に応える重吉の態度の諄朴さと、普通にない世馴れなさであった。重吉の挙止には、ひそめられている限りない歓喜と初々しさと、万事につき、見当のつかないところがまじりあっていた。それらすべては青年から・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・自分の心にあるものを私どもは話す、受けて応えるこだまこだまの美しさ、そういうものを求めて来ていらっしゃると想像します。 あなた方一人一人は英雄ではないでしょう。私どもが一葉より文学に於て才能が劣っているかも知れない。しかし歴史は新しい、・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ 思案に暮れた独言に、この夜中で応えるのは、死んだ嫁が清元のさらいで貰った引き幕の片破ればかりだ。「全くやんなっちゃう」 今日風呂へ行くと、八百友の女房が来ていた。世間話の末、「おばさんところの異人さん、いつお産です? なか・・・ 宮本百合子 「街」
・・・気の毒で、此方から応える声は一つもしなかった。 けれども、家の安否を気遣う人々は、東京から来た列車が近くに止ると、声の届くかぎり、先の模様を聞こうとする。「貴方は何方からおいでです?」「神田。」「九段のところは皆やけましたか・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・最も窮したのは、寒山が文殊で拾得は普賢だと言ったために、文殊だの普賢だののことを問われ、それをどうかこうか答えるとまたその文殊が寒山で、普賢が拾得だというのがわからぬと言われたときである。私はとうとう宮崎虎之助さんのことを話した。宮崎さんは・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・私が何をしていくかという質問を出された前では、ただ自分は爆けていき、はみ出して行きたいと望んでいると答えるより、今のところ答弁は見つかりそうもない。 横光利一 「作家の生活」
出典:青空文庫