・・・ざっぱに見て、小林秀雄、林房雄、河上徹太郎、横光利一、室生犀星氏等のように、今日あるままの分裂の形に於て、作家の側からより文化水準の低い民衆を眺め、官吏、軍人、実業家中の精鋭なる人士が情熱を示している刻下の中心問題を文学の中心課題とし、「大・・・ 宮本百合子 「文学の大衆化論について」
・・・ 十一時、ピカデリー広場やチャーリング・クロス附近から一斉に英国国歌の吹奏が起った。 ――神よ・我等の光栄ある王を護れ。――タクシーが熱してはしり出した。どこへの宣戦布告だ?――芝居がはねたのだ。舞台衣裳に働かす活溌な想像力はパイプ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・持合せ候とて、はじめて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下に比類なき所ならずや、茶儀は無用の虚礼なりと申さば、国家の大礼、先祖の祭祀も総て虚礼なるべし・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・梶はまたすぐ、新武器のことについて訊きたい誘惑を感じたが、国家の秘密に栖方を誘いこみ、口を割らせて彼を危険にさらすことは、飽くまで避けて通らねばならぬ。狭い間道をくぐる思いで、梶は質問の口を探しつづけた。「俳句は古くからですか。」 ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・そうして大きい、よく組織された国家の、すみずみまで行き届いた秩序があり、権力の強い支配者があり、豊富な産業がある。骨までも文化が徹っている。東海岸の国土、たとえばモザンビクの海岸においても状態は同じであった。 十五世紀から十七世紀へかけ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫