・・・それが何百膳だかこてこてある。あとで何膳ずつかに分ける段になると、その漆臭いにおいが、いつまでも手に残ったので閉口した。ちょっと嗅いでも胸が悪くなる。福引の景品に、能代塗の箸は、孫子の代まで禁物だと、しみじみ悟ったのはこの時である。 籤・・・ 芥川竜之介 「水の三日」
・・・、ひゅうら、ひゅ、諏訪の海、水底照らす小玉石、を唄いながら、黒雲に飛行する、その目覚しさは……なぞと、町を歩行きながら、ちと手真似で話して、その神楽の中に、青いおかめ、黒いひょっとこの、扮装したのが、こてこてと飯粒をつけた大杓子、べたりと味・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・私はこてこて持ちだされた食物を見ながら言った。「それああんた、あんたは天麩羅は東京ばかりだと思うておいでなさるからいけません」桂三郎は嗤った。 雪江はおいしそうに、静かに箸を動かしていた。 紅い血のしたたるような苺が、終わりに運・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫