・・・ そんな事が私の心臓の鼓動を頭の頂上でうたせて居る。一時頃まで私はあの人のかつら下地に結ったかお、引眉毛の目つき、を思って居た。 ウトウトとして目をさましたら七時頃だった。すぐとびおきて私は、退紅色と紅の古い紙に包んだ鏡と、歌と、髪・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・ぐらい、著者の胸の鼓動がありのままにつたわっている解説書は類がすくないのではないだろうか。その長所と欠点とにおいて、著者は全く自己の真心を披瀝しており、読者の人間性の皮膚にじかにふれんとする情熱を示している。その意味で、解説的、入門的な本の・・・ 宮本百合子 「新島繁著『社会運動思想史』書評」
・・・苦しいほどの緊張は快い静かな歓喜に返って行き、心臓の鼓動はまたゆるやかに低い調子を取り返す。 けれどもこの穏やかさは、視覚に集中した心が聴覚の方へ中心を移す一つの中間状態に過ぎない。僧侶たちが、仏を礼讃する心持ちにあふれながら読誦するあ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫