・・・ ボナパルトは自分の傍に蹲み込む妃の体温を身に感じた。「ルイザお前は何しに来た?」「陛下のお部屋から、激しい呻きが聞えました」 ルイザはナポレオンの両脇に手をかけて起そうとした。ナポレオンは周章てて拡った寝衣の襟をかき合せる・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・観ること自身がすでに対象に働き込むことである、という仕方においてのみ対象はあるのである。我は没せられつつ、しかも対象として己れを露出して来る。ここに著者の風物記の滋味が存すると思う。 もちろん著者が顕著に個人主義的傾向を持つことは覆い難・・・ 和辻哲郎 「『青丘雑記』を読む」
・・・それに反して普通の直行は臨時汽車の運転を必要とするくらいだからひどくコムに相違ない――で、私は臨時汽車のある事を教えたくてたまらなかったのだ。 私は母親の前に立った。そうして汽車のことを説明した。母親は知らない人から突然口をきかれて、ほ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・それに反して普通の直行は臨時汽車の運転を必要とするくらいだからひどくコムに相違ない――で、私は臨時汽車のある事を教えたくてたまらなかったのだ。 私は母親の前に立った。そうして汽車のことを説明した。母親は知らない人から突然口をきかれて、ほ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫