・・・ 樅の木伐るの可哀そうだから、いらないヨ」 モスクワ全市の労働者クラブで、夜あけ頃まで反宗教の茶番や音楽やダンスがあった。 五ヵ年計画がソヴェト同盟に実行されはじめて、教会と坊主は、プロレタリアートと農民の社会主義社会建設の実践・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
・・・幸いにきょうはこの方角の山で木を樵る人がないと見えて、坂道に立って時を過す安寿を見とがめるものもなかった。 のちに同胞を捜しに出た、山椒大夫一家の討手が、この坂の下の沼の端で、小さい藁履を一足拾った。それは安寿の履であった。 ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・常より物に凝るならい……いかにも怪しい体であッたが、さてもおれは心つきながら心せなんだ愚かさよ。慰め言を聞かせたがなおもなおおもいわびて脱け出でたよ。ああら由々しや、由々しいことじゃ」 心の水は沸え立ッた。それ朝餉の竈を跡に見て跡を追い・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫