・・・わけはない、ころっと死にさえすればいいんだよ。戸部 花田、貴様は残酷な奴だ。……ともちゃんをすぐ寡婦にする……そんな……貴様。花田 なんだ貴様たちはともちゃんのハズがほんとうに……瀬古 死ななけりゃならないんだろう。花・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・寝転んで東西古今の小説を読み散らし、ころっと忘れてしまった人の方が、新しい文章が書けるのではあるまいか。手本が頭にはいりすぎたり、手元に置いて書いたり、模倣これ努めたりしている人たちが、例えば「殺す」と書けばいいところを、みんな「お殺し」と・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・剥いでも剥いでも、たやすく芯を見せない玉葱のような強靱さを持っていた人だ。ころっと死んだのだ。嘘のように死んだのだ。武田さんはよくデマを飛ばして喜んでいた。南方に行った頃、武田麟太郎が鰐に食われて死んだという噂がひろがった。私は本当にしなか・・・ 織田作之助 「武田麟太郎追悼」
・・・ こんな事を思いながら御土産のつづらをあけるようにそっとようじのさきでひらいて見ると思いがけなく茶色の小虫はころっとなって入って居た。 私はみ入られたようにいつまでもこれを見て居た。 イキなり、ほんとにいきなり小虫はからだに似合・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
出典:青空文庫