・・・銀にしろ、男と全く同じ働きでさえ女だからと五銭なり十銭なりやすくしなければ気のすまない従来の習慣に対して、労務委員会あたりでは談笑のうちに、女がどっさりとるようになると永く働いていて男の邪魔になるし、婚期がおくれて人口問題にもさし障る、と至・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
・・・そこには、常識で女の婚期と考えられている期間が割合短い制限を持っていることもあるし、数の上で男の少くなって来ている今日の現実にもかかわっている。 そういう今日の若い男女が自分たちのこととしての結婚についてどんな心持ちや考えを抱いているの・・・ 宮本百合子 「若い世代の実際性」
・・・まれに物ずきに近づこうと試みるものがあっても、しばらくするうちに根気が続かなくなって遠ざかってしまう。まだ猪之助といって、前髪のあったとき、たびたび話をしかけたり、何かに手を借してやったりしていた年上の男が、「どうも阿部にはつけ入る隙がない・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・山のように積み上げたもみじの葉を根気よくたき口から突き込んで、長い時間をかけて、やっとはいれる程度に湯がわいた。湯はもちろん薪で焚いたのと一向変わりはなかったが、しかしこの努力でできた灰は大したものであった。さらさらとしていて、何となく清浄・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫