・・・という文句が金字で打たれている。 今から十七年前、帝政ロシアの資本家・地主と僧侶の支配下のロシアで、勤労大衆のために中等教育施設がどんなものだったかは次の表を見ても明かだ。一九一四年度ロシアの中学校、実務学校、予備学校における学・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・けれども率直にいってそれ以上の何ものであったろうか。今次大戦が始ってから彼女の良人である映画監督者は、レーニングラードの前線で記録映画のために働いていた。レーニングラードは包囲された。モスクワにいたヴェラ・インベルは飛行機でレーニングラード・・・ 宮本百合子 「新世界の富」
・・・殿はなんとも云うことは出来なかった。今時の女、それにまだ二十にもならない女が大胆に自分の思って居ることを人に告げる、その事も主人の弟を思って居た事を主に告げる、あまり大胆な仕業であるが―― 殿は斯う思って迷った、けれ共常からどこか毛色の・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・「おら田舎婆さまで今時の子供は何が好きか分らないごんだ。お前好きなものこれで買え」 その一円は五十銭の銀貨二枚か札かであった。母は子供が金を持つことは悦ばない。然しこの場合は黙って見ている。 ふだん金というものを持たないから一円・・・ 宮本百合子 「百銭」
谷崎潤一郎の小説に「卍」という作品がある。その本が一冊千円で売られる話をきいた。小売店では、いくらなんでもとあやぶんでいたところ案外に買手がある。今時の金は、ある所にはあるものだ、という驚きとむすびつけて話された。荷風もよ・・・ 宮本百合子 「文化生産者としての自覚」
・・・と、東北における農民の窮乏根治策のために「農村真理道場」というのをそういう地方に設けようとする広告を発表しているのである。そして、自分が骨を折って若い男女の冬期間だけの出稼ぎを援助し、「村民の気分を作興して」例えば娘の身売りを平気でさせる「・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・そして、インテリゲンツィアも「わかってはいるのさ、今時それぐらいのことの分らぬ奴があるか」という。だがこの分りかたは、観念論者ボグダーノフ流に「実践とは意識を組織することである」となるか、さもなければ p.102「資本主義体系の衰滅は、労働・・・ 宮本百合子 「「若い息子」について」
・・・光尚は鉄砲十挺を預けて、「創が根治するように湯治がしたくばいたせ、また府外に別荘地をつかわすから、場所を望め」と言った。又七郎は益城小池村に屋敷地をもらった。その背後が藪山である。「藪山もつかわそうか」と、光尚が言わせた。又七郎はそれを辞退・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・当山は勅願の寺院で、三門には勅額をかけ、七重の塔には宸翰金字の経文が蔵めてある。ここで狼藉を働かれると、国守は検校の責めを問われるのじゃ。また総本山東大寺に訴えたら、都からどのような御沙汰があろうも知れぬ。そこをよう思うてみて、早う引き取ら・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・薄暗い箱から、背革に記してある金字が光を放っている。私は首を屈めて金字を読もうとした。「Meyer の小ですよ」と、F君が云った。「そうか。ひどく立派な本になったね。それに僕の持っているのは二冊物だが。」「それは古いのです。これ・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫