・・・しかし緊密であるというのは、歌のこころ、歌の世界がひしとうち出されてのことであって、格調を整える語彙というもの、用語法というもの、ましては型であってはつまりません。 短歌は日本の民族がもって来た文学のジャンルですから、それを破壊するより・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・等の言葉は保田その他の諸氏の愛好する語彙である。だが、それらの用語は天から降る金の箭のように扱われ、古代・中世・近世日本の文学におけるそれらの基準の概括の背景と内容は説き明されない。かかる日本文学古典上の評価の規準の推移に関するまとまったも・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 日本のわたしたちが、こんにち、本質のすりかえられた民主的語彙によって生活させられているとすれば、それは或る意味で、母国語を失ったよりも重大なことである。ポーランドや朝鮮の人々は、母国語を失わされたことによって、はげしい正当な憤りを感じ・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・そういうグループの作家の語彙には非常に「苦悩」とか「汚辱」とかいう言葉が多くつかわれます。その代表的なのが、高見順の「わが胸の底のここには」という『新潮』に連載されている作品です。文学好きというような人には、そうとう読まれていると思う。・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・大人の常識が不合理ときめる理由や感情が、子供にとって充分の理由であり、真実であり、而も大人を納得させるだけの語彙を欠いているばかりに、私共、総ての子供はどんなに苦しい思いをして来たことだ! 二三日その少女のことが忘られなかった。次に、夜・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・近頃一部の流行の語彙と見れば、筆者のありようを語るわけだし、本来の語義で解釈していいものとすれば、こういう表現はその反対物として、夥しい因襲、悪弊の存在を認めなければならないというわけになる。 図解が昨今は大変趣向にかなうらしくて、この・・・ 宮本百合子 「ラジオ時評」
・・・美しい耳飾をたらし、白い歯の上で英語語彙中のある部分――慈悲とか同情とか社会的意義とか云う言葉をへらしつつ着々自身の経歴に重みを加えている。 満ち足れる人々から一シリングでも多い寄附を得るためには彼らを極めて快く楽しませなければいけない・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・これら新感覚派なるものの感覚を触発する対象は、勿論、行文の語彙と詩とリズムとからであるは云うまでもない。が、そればかりからでは勿論ない。時にはテーマの屈折角度から、時には黙々たる行と行との飛躍の度から、時には筋の進行推移の逆送、反覆、速力か・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫