・・・五十吉といい今は西洞院の紙問屋の番頭だが、もとは灰吹きの五十吉と異名をとったごろつきでありながら、寺田屋の聟はいずれおれだというような顔が癪だと、おとみなどはひそかに塩まいていたが、お定は五十吉を何と思っていたろうか。 五十吉はずいぶん・・・ 織田作之助 「螢」
・・・私は、救い難き、ごろつきとして故郷に喧伝されるに違いない。 その後の私の汚行に就いては、もはや言わない。ぬけぬけ白状するということは、それは、かえって読者に甘えている所以だし、私の罪を、少しでも軽くしようと計る卑劣な精神かも知れぬし、私・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・まるでそれではごろつきです。何の純情なものですか。あなたのような人こそ、悪人というのです。帰って下さい。お帰りにならなければ、人を呼びます。静かにしなさい。これが見えませんか。今夜は、私も命がけです。いつまでも、そうそうあなたにからかわ・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・何をしていたものの成れの果やら、知ろうとする人も、聞こうとする人も無論なかったが、さして品のわるい顔立ではなかったので、ごろつきでも遊び人でもなく、案外堅気の商人であったのかも知れない。 オペラ館の風呂場は楽屋口のすぐ側にあった。楽屋口・・・ 永井荷風 「草紅葉」
・・・顔もごろつきそうな顔でしょう。あれが髭を生やして狩衣を着て楠正成の家来になってたから驚いた。 次に内容と全く独立した。と云うより内容のない芸術がありますが、あれは私にも少々分る。鷺娘がむやみに踊ったり、それから吉原仲の町へ男性、中性、女・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・ 私はたとえば、彼女が三人のごろつきの手から遁げられるように、であるとか、又はすぐ警察へ、とでも云うだろうと期待していた。そしてそれが彼女の望み少い生命にとっての最後の試みであるだろうと思っていた。一筋の藁だと思っていた。 可哀想に・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・大将「イタリヤごろつき組合だ。」特務曹長「なるほど、ジゴマと書いてあります。」「おい、やれ。」特務曹長「実に立派であります。」大将「これはもっと立派だぞ。」特務曹長「これはどちらからお受けになりましたのでありますか。」・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 網は時々風にやぶれたりごろつきのかぶとむしにこわされたりしましたけれどもくもはすぐすうすう糸をはいて修繕しました。 二百疋の子供は百九十八疋まで蟻に連れて行かれたり、行衛不明になったり、赤痢にかかったりして死んでしまいました。・・・ 宮沢賢治 「蜘蛛となめくじと狸」
・・・竹中、元、実業界に居た男、大正九年の暴落でつぶれ、竹内のところでごろつき、会に入れて貰う。赤坂の芸者にひっかかった尻ぬぐいその他すっかりさせた男、段々隣保館で勢力を得て、今しきりに反竹内熱をたきつけて乗とろうとして居る。その男が、まあそ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫