・・・ 処が最近になって、彼はKの処からも、封じられることになった。それは、Kの友人達が、小田のような人間を補助するということはKの不道徳だと云って、Kを非難し始めたのであった。「小田のようなのは、つまり悪疾患者見たいなもので、それもある篤志・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ ところが、最近、ふとしたことから、この空想の致命的な誤算が曝露してしまった。 元来、猫は兎のように耳で吊り下げられても、そう痛がらない。引っ張るということに対しては、猫の耳は奇妙な構造を持っている。というのは、一度引っ張られて破れたよ・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・村の小川、海に流れ出る最近の川柳繁れる小陰に釣を垂る二人の人がある。その一人は富岡先生、その一人は村の校長細川繁、これも富岡先生の塾に通うたことのある、二十七歳の成年男子である。 二人は間を二三間隔てて糸を垂れている、夏の末、秋の初の西・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・ 二 倫理学の入門 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の内面生活ならびに社会生活の一切の道徳的に重要な諸問題が、それを一貫する原理の探究を目ざしてとり・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・「いや。」「露西亜語を教わりに行く振りをして、朝鮮人のところへ君は、行っとったんじゃないんか?」「いつさ。」「最近だよ。」「なぜ、そんなことをきくんだい?」 半里ばかり向うの沼のほとりに、鮮人部落がある。そこに、色の・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・一体運動の法則を論じて見れば一点より他点までに移る最近径は前にもいッた通り直線に極ッてるのサ。ダガ物は直線に進まないよ。直線に進まないのではないが、螺旋をして行く場合には直線にも進むが即ち前にもいッた所の直線的有則螺旋サ。分ッたかネ。たとえ・・・ 幸田露伴 「ねじくり博士」
・・・細は細菌より、大は大象にいたるまでの運命である。これは、天文・地質・生物の諸科学が、われらにおしえるところである。われら人間が、ひとりこの拘束をまぬがれることができようか。 いな、人間の死は、科学の理論を待つまでもなく、実に平凡なる事実・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 是れ太陽の運命である、地球及び総ての遊星の運命である、況して地球に生息する一切の有機体をや、細は細菌より大は大象に至るまでの運命である、これ天文・地質・生物の諸科学が吾等に教ゆる所である、吾等人間惟り此鈎束を免るることが出来よう歟。・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・それは名の知れている左翼の人で、最近どうして書かなくなったのだろうと思っていた人だった。ところが、此処にいたのだ。この人も! そう思うと、俺は何んだか急に気が強くなるのを感じた。 それから「仮調所」に連れて行かれて、裸かにされた。チンポ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・ですらもはや問題でないという顔つきで、フランス最近の画界を代表する人たち――ことに、ピカソオなぞを口にするような若者になっていた。「とうさん、今度来たビッシェールの画はずいぶん変わっているよ。あの人は、どんどん変わって行く――確かに、頭・・・ 島崎藤村 「嵐」
出典:青空文庫