・・・ 宗之助の小町に、些も小野小町らしい大らかさも、才気もなく、始めから終りまで、妙にせっぱ詰った一筋声で我身を呪ったり、深草少将を憤ったりしたのは、頭が無さすぎた。 科白も始めの部分と終りの方とでは言葉使いが違っている。勿論台本がああ・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・が、その射すくめるようなしかも深い優しさのこもった灰色の目と、特徴のある表情的な口もとの様子などで、いかにも人目を引く才気煥発な教養高い十九歳の家庭教師となった時、そのZ家の長男カジミールとの間に結ばれた結婚の約束のその無邪気な若い二人の申・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・一定のイデオロギーに対する人間的弱さ、箇性の再発見、インテリゲンツィア・小市民としての出生への再帰の欲望などが内的対立として分裂の形で作品にあらわれ、傷いた階級的良心の敏感さは、嘗てその良心の故に公式的であったものが今や自虐的な方向への拍車・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・によって第一段の債鬼追っ払いをした時代であり、日本文学の動向に於てかえり見ると、これは明瞭な指導性をもつ文芸思潮というものが退潮して後、しかも今日では被うべくもない文化に対する統制が次第に現れようとする時であった。森田たま氏の「もめん随筆」・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・農村の生活で自然の美を謳うより先に懸念されるのはその自然との格闘においてどれだけの収穫をとり得るかという心痛であり、しかも、それは現代の経済段階においては、純粋な労働の成果に関する関心ではなくて、債鬼への直接的連想の苦しみなのである。せんだ・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・現代のインテリゲンツィア作家は、自分が現実にどういう反応を示しているかということについて、自身の才気の身振りや、饒舌の自己催眠に眩惑されないだけの神経の勁さと真摯な探求心を求められていると思う。 本年三月号の『文芸』で森山啓氏と伊藤整氏・・・ 宮本百合子 「数言の補足」
・・・の確立の問題は、それが、マルクス主義に打ちあたってのちのブルジョア・インテリゲンチアの間に再起した個への還元の問題として、大きい社会的内容を私どもに印象づけるのである。「紋章」については多数の人々がさまざまにそれを突いていた。その批評に・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・彼女は、決然とそれに対し、男が父親であるとともに自由に邪魔されず仕事を持ち続ける通り女性も母であると同時に家庭生活に煩わされず自分の仕事を継続し得るべきものと云う理想の為に、再起したのでした。 彼女は自分を来るべき女性の時代に先立つ一人・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・のリュシアンは、高く低く波瀾は大きいにしろ、性格としてはありふれて凡俗な才気と野心と浮薄さと意志しかもっていない。しかし彼を翻弄した上流人の生活詐術、十九世紀の金力と結びつき権力と結びついた新聞人の無良心的な関係、手形交換に際して行われる金・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・そういう女たちは我儘で得手勝手で、名誉心が強く、一葉の才気を憎らしがってお嬢さんらしい図々しさで押しつける。それに対して一葉は憤慨しています。向島のお茶の席のような所に歌の会があって、きれいな着物を着て行った。――その頃はいまと違ってそうい・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫