・・・な日本語を操っていたうちはともかくそれぞれの立場から人間らしき知慧の明るさを求めていたのに、辛うじて平易な日本文を書き出したと同時に知性を喪失したとあっては、一九四〇年を目ざして、明朗な文化高揚のため砕心する諸賢においても、些か憂慮を要する・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・リズム模様、最新流行モダーン染。 ――上へ参ります、上へ参ります。 ――美容術をやって見せるんだよ。 ――だって二十銭も違うんだもん、そりゃそうだろう。 緑色の仕着せを着た音楽隊はフィガロの婚礼を奏し、飾棚にロココの女の入黒・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・労働能力だけは現代最新技術に適応して訓練されているが、文化面では渾沌におかれている夥しい数の青年男女が彼等と彼女たちの僅かの時間と金銭とを、嬉々としておどろくような情熱をもって映画に投じている。高杉早苗の新婚旅行の首途に偶然行きあわせたと云・・・ 宮本百合子 「観る人・観せられる人」
・・・ 次の室の戸をあけて内部を見せた。「風呂に入ったり、髪を洗ったりして、すっかり産院の衣服にきかえて貰います」 最新式の設備でシャワーがある。風呂、体重計量器。「次は、陣痛室ですが……」 戸のハンドルをそーっとあけた。広い・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・の煙を立て、しかも世界最新の物理力による破壊にさえ面しました。インドの人々の小屋。中国の最も進歩した世代の人々が、古き大地の第何世紀層かの洞窟ぐらしをしている不思議さ。今日この地球は、人間の発展のための矛盾や摩擦の諸問題にあふれています。そ・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
・・・しかし、理論家にとっては一篇の作品を細心に吟味することで、プロレタリア文学として次の発展段階へ、しかじかにありたい、という要望をひき出すことが可能である。作家が、その要望を自身のものとして実感したとしても、作品の現実でそれを具体化することは・・・ 宮本百合子 「両輪」
出典:青空文庫