・・・ と訊くから、そういうのが、慌てる銃猟家だの、魔のさした猟師に、峰越しの笹原から狙い撃ちに二つ弾丸を食らうんです。……場所と言い……時刻と言い……昔から、夜待ち、あけ方の鳥あみには、魔がさして、怪しいことがあると言うが、まったくそれは魔がさ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・高くもないけど道のない所をゆくのであるから、笹原を押分け樹の根につかまり、崖を攀ずる。しばしば民子の手を採って曳いてやる。 近く二三日以来の二人の感情では、民子が求めるならば僕はどんなことでも拒まれない、また僕が求めるならやはりどんなこ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・ 上っ皮のかすれた様な細い声は低く平らかに赤い小さな唇からすべり出て白い小粒にそろった歯を少し見せて笑う様子は二十を越した人とは思われないほど内気らしかった。 笹原と云う姓は呼ばずに千世子はいつでも 肇さんと呼んだ。 ・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・「あの――笹原の肇って云うんです。 早稲田だねえ、君! 小さい時っからの仲よしなんですよ。「まあ、そんなら今までお目に掛らなかったのが不思議な位ですねえ。 ああそれから、 貴方こっちへいらっしゃいよ。 千・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
出典:青空文庫