・・・ 多くの作家が京都弁を使った小説を書いている。が、私にはどの作家の小説に書かれた京都弁も似たり寄ったりで、きまり切った紋切型であるような気がしてならない。これは私自身まだ京都弁というものを深く研究していないから、多くの作家の作品の中に書・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・それに、元来作家なんてものは、すべてこうしたことはいっさい関係しないものなんだよ」笹川はこう、彼のいわゆる作家風々主義から、咎めるような口調で言った。 彼のいわゆる作家風々主義というのは、つまり作家なんてものは、どこまでも風々来々的の性・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・わへ出る拱門型に刳った出口がその厚い壁の横側にあいていて、湯に漬って眺めていると、そのアーチ型の空間を眼の高さにたかまって白い瀬のたぎりが見え、溪ぎわから差し出ている楓の枝が見え、ときには弾丸のように擦過して行く川烏の姿が見えた。 ・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・その晩行一は細君にロシアの短篇作家の書いた話をしてやった。――「乗せてあげよう」 少年が少女を橇に誘う。二人は汗を出して長い傾斜を牽いてあがった。そこから滑り降りるのだ。――橇はだんだん速力を増す。首巻がハタハタはためきはじめる。風・・・ 梶井基次郎 「雪後」
・・・ ある有名な日本の女流作家の如きは幾度も離合をくりかえしてそのたびごとに成長したという話も聞いている。しかしながら私たちはかような離合の数のできるだけ少ないことを尊しとせざるを得ない。そしてその神聖のものはいつでも一回性のそれである。ひ・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・読んでそういう感じを覚える作家や、本は滅多にないものだ。 僕にとって、トルストイが肥料だった。が、トルストイは、あまりに豊富すぎる肥料で、かえってあぶないようだ。あまりに慾張って、肥料を吸収しすぎた麦は、実らないさきに、青いまゝ倒れて、・・・ 黒島伝治 「愛読した本と作家から」
・・・ 私は、バルザックとドストエフスキーが流行しだしたという言葉をきいてその頃離京したのだが、いまでは、この世界第一流の作家もかえりみる者がすくなくなっているだろう。田舎で流行にはずれていると、バルザックや、ドストエフスキーや、トルストイは・・・ 黒島伝治 「田舎から東京を見る」
・・・文学・芸術などにいたっても、不朽の傑作といわれるものは、その作家が老熟ののちよりも、かえってまだ大いに名をなしていない時代に多いのである。革命運動などのような、もっとも熱烈な信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、ことに少壮の士に待たねば・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・ 力士の如き其最も著しき例である、文学・芸術の如きに至っても、不朽の傑作たる者は其作家が老熟の後よりも却って未だ大に名を成さざる時代の作に多いのである、革命運動の如き、最も熱烈なる信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、殊に少壮の士に・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・自身その気で精進すれば、あるいは一流作家になれるかも知れない。この家の、足のわるい十七の女中に、死ぬほど好かれている。次女は、二十一歳。ナルシッサスである。ある新聞社が、ミス・日本を募っていたとき、あのときには、よほど自己推薦しようかと、三・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫