・・・正宗白鳥は、菊池が自身の側においたような風でいっている警保局云々の考えかたを、そのようにケシかけたりするのは意外のようであるとし、山本有三、佐藤春夫、三上於菟吉、吉川英治その他が組織した文芸院の仕事の価値をも言外にふくめて「文学者がさもしい・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・其那こといやだというのを、バチェラーは、道庁や佐藤博士の御厄介になって居るからことわれず、八重電報で呼ばれ、かえって入るともうその人が来て居る。 目的や何か伺わないうちはいや 通弁だけはするが人が出て来るかどうか判らない。 然し・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・そこへ佐藤という、色の白い、髪を長くしている、越後生れの書生が来て花房に云った。「老先生が一寸お出下さるようにと仰ゃいますが」「そうか」 と云って、花房は直ぐに書生と一しょに広間に出た。 春慶塗の、楕円形をしている卓の向うに・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・学生は料理屋へ大晦日の晩から行っていまして、ボオレと云って、シャンパンに葡萄酒に砂糖に炭酸水と云うように、いろいろ交ぜて温めて、レモンを輪切にして入れた酒を拵えて夜なかになるのを待っています。そして十二時の時計が鳴り始めると同時に、さあ新年・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・飯のそえものに野菜煮よといえば、砂糖もて来たまいしかと問う。棒砂糖少し持てきたりしが、煮物に使わんこと惜しければ、無しと答えぬ。茄子、胡豆など醤油のみにて煮て来ぬ。鰹節など加えぬ味頗旨し。酒は麹味を脱せねどこれも旨し。燗をなすには屎壺の形し・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・ 佐藤春夫氏は極力作者に代って弁解されたが、あの氏の弁明は要するに弁明であって、自然はそんなことを赦すはずがないと思う。次ぎの『顔世』はあのような失敗の作である。もし佐藤氏の弁明が弁明でないなら、自作の顔世があのようなおどけた失敗はする・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・ 佐藤春夫の頭 私は或る夜佐藤春夫の頭を夢に見た。頭だけが暗い空中に浮いているのである。顔をどうかして見ようと思うのに少しも見えない。その癖顔は何物にも邪魔されてはいないのだ。頭だけが大きく浮き上り、頂上がひどく突角っ・・・ 横光利一 「夢もろもろ」
出典:青空文庫