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・・・此奴が取澄ましていかにも高慢で、且つ翁寂びる。争われぬのは、お祖父さんの御典医から、父典養に相伝して、脈を取って、ト小指を刎ねた時の容体と少しも変らぬ。 杢若が、さとと云うのは、山、村里のその里の意味でない。註をすれば里よりは山の義で、・・・
泉鏡花
「茸の舞姫」
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・・・ 雨あがりの日であったためか、長崎の街は、同じものさびるにしても、奈良、京都などとは趣を異にしていたのを感じた。奈良などの建物が古びたのは、あの乾燥した日光と熱とに照りつけられ徐に軽いさらさらした塵と化すといった風の古びかただ。長崎のは・・・
宮本百合子
「長崎の印象」