・・・「これはどうも尤もだ。僕もさっき玄関で、山のなかだとおもって見くびったんだよ」「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」 そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落しました。 そしたら、どうです。・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・私は三越でこさえた白い麻のフロックコートを着ましたが、これは勿論、私の好みで作法ではありません。けれども元来きものというものは、東洋風に寒さをしのぐという考も勿論ですが、一方また、カーライルの云う通り、装飾が第一なので結局その人にあった相当・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・向うには、髪もひげもまるで灰いろの、肥ったふくろうのようなおじいさんが、安楽椅子にぐったり腰かけて、扇風機にぶうぶう吹かれながら、「給仕をやっていながら、一通りのホテルの作法も知らんのか。」と頬をふくらして給仕を叱りつけていました。・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 昔から躾というと、とかく行儀作法、折りかがみのキチンとしたことを、躾がよいといいならわして来ました。しかし、今日の生活は遑しく、変化が激しく、混んだ電車一つに乗るにしても、実際には昔風の躾とちがった事情がおこって来ています。しとや・・・ 宮本百合子 「新しい躾」
・・・工場学校と云えば体のいい徒弟養成所か、さもなければ製糸所の女工さんなどをプロレタリアの女として目ざまさない為に、いろんなブルジョアくさい女学校の型ばかりの真似をして、役にも立たない作文だの、活花だの、作法だので労働の中から自ずと湧く階級的な・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ *心が響に満ち 音律に顫えて来ると詩の作法は知らぬ自分も、うたをうたいたく思う。何と表したらよいか 此の心持どう云うのだろう 斯う云う 優しい 寂しい、あこがれの心は。小説を書く自分は、辛くなり、・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・野間宏が、ジイドやヴァレリーの言葉からぬけでて――ヨーロッパ的小説作法を、日本の民主革命の課題にそった人民の言葉で人民の生活を描こうとしている昨今の試みは、すべての人に期待を抱かせている。彼が一応のスタイルをこわして、ヴァレリーの言葉から、・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・いくら彼方此方の大学で一生懸命に「短篇小説作法」を講義していても、講義し切れないものがあるのだから恐ろしい。真個にひとのことではないと思う。さて、此から私の書き並べて行こうとする本の中で真個に読んだのは極小部分である。其れ等の本を近いうちに・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 久内が、父の山下などと茶の湯をやる、茶の湯の作法を、横光は丹念に書いて「戦乱の巷に全盛を極めて法を確立させた利休の心を体得することに近づきたいと思っている」久内の安心立命、模索の態度を認め、更に「わが国の文物の発展が何といっても茶法に・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・徳川時代にできあがった風俗作法のうちには、右のごとき視点からして初めて理解され得るものが少なからず存すると思う。 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫