・・・「さよなら、おっかさん。」「さよなら、おっかさん。」子どもらはみんな一度に雨のようにえだからとびおりました。 北風がわらって、「ことしもこれでまずさよならさよならっていうわけだ。」といいながらつめたいガラスのマントをひらめかして・・・ 宮沢賢治 「いちょうの実」
・・・「よろしい。さよなら。気をつけておいで」 この通りです。 また向こうの、黒いひのきの森の中のあき地に山男がいます。山男はお日さまに向いて倒れた木に腰掛けて何か鳥を引き裂いてたべようとしているらしいのですが、なぜあの黝んだ黄金の眼・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・ ある晩、象は象小屋で、ふらふら倒れて地べたに座り、藁もたべずに、十一日の月を見て、「もう、さようなら、サンタマリア。」と斯う言った。「おや、何だって? さよならだ?」月が俄かに象に訊く。「ええ、さよならです。サンタマリア。」・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ 狐が角パンを二つくわえて来てホモイの前に置いて、急いで「さよなら」と言いながらもう走っていってしまいました。ホモイは、 「狐はいったい毎日何をしているんだろう」とつぶやきながらおうちに帰りました。 今日はお父さんとお母さんとが・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・そこでベン蛙とブン蛙とは、「さよならね。」と云ってカン蛙とわかれ、林の下の堰を勇ましく泳いで自分のうちに帰って行きました。 * あとでカン蛙は腕を組んで考えました。桔梗色の夕暗の中です。 しばらくしばら・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・あ、もう行くんだ。さよなら。」 又三郎は立ちあがってマントをひろげたと思うとフィウと音がしてもう形が見えませんでした。 一郎と耕一とは、あした又あうのを楽しみに、丘を下っておうちに帰りました。 九月三日 その次の・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・じゃさよなら、私はもうはなせない。じいさんを呼んで来ちゃいけないよ。さよなら。」 斯う云ってしまうと蜂雀の細い嘴は、また尖ってじっと閉じてしまい、その眼は向うの四十雀をだまって見ていたのです。 私も大へんかなしくなって「じゃ蜂雀・・・ 宮沢賢治 「黄いろのトマト」
・・・苔さん。さよなら。さっきの歌を、あとで一ぺんでも、うたって下さい。私の行くところは、ここのように明るい楽しいところではありません。けれども、私共は、みんな、自分でできることをしなければなりません。さよなら。みなさん。」「東京帝国大学校地・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・いや、さよなら。」大学士は、また忙がしそうに、あちこち歩きまわって監督をはじめました。二人は、その白い岩の上を、一生けん命汽車におくれないように走りました。そしてほんとうに、風のように走れたのです。息も切れず膝もあつくなりませんでした。・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・そしてまるで細いかすれた声で、「さよなら。」と言ってクねずみのおうちを出て行きました。 クねずみは、そこであおむけにねころんで、「ねずみ競争新聞」を手にとってひろげながら、「ヘッ。タなどはなってないんだ。」とひとりごとを言い・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
出典:青空文庫